2009年11月22日日曜日

Love Letters

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----- Jazz Story #28 -----

  「Love Letters」 水城雄


 この上ない秋晴れの日、私はパソコンに向かって、苦情処理のメールを書いている。
 お客さまからの苦情。深刻な訴え。
 苦情処理係として、ここは誠心誠意、対応しなければならない。対応を間違えると、会社に甚大な損害をあたえてしまうことになる。お客さまの苦情に対して誠意ある態度を見せ、お怒りを静めてさしあげるのが、私の仕事だ。その仕事に対してお給料をもらっているわけだから。
 だから、どんな苦情が来ようと、冷静に、適切に対応しなければならない。
 なんてことだろう。
 ときどき泣きたくなる。愚痴をこぼしたくなる。椅子を蹴って立ちあがり、パソコンの画面に上司の灰皿を叩きつけたくなる。ああそう、私の近くで無神経に煙草をふかしている上司の存在だって、私には苦痛なのだ。
 でも私はいつもニコニコ。
「おはようございます」
「お疲れさまです」
「あ、コピーですか。わかりました、すぐにやっておきます」
 わざわざメールをいただきありがとうございます。お客さまのご要望の件は、早急に社内で検討いたしまして、ご納得いただけるような対応を……
 秋の空はどこまでも澄みきり、晴れわたっている。

 急に冷えこんできた。私はコートを持ってこなかったことを後悔した。もうコートを着て歩いていてもおかしくはない季節なのだ。
 例によって残業。苦情の電話。一時間近くもねばられてしまった。私がおかしたミスではないのに。でも、人のミスを処理するのが、私の仕事。
 自社ビルの通用口を出ると、ビルの谷間を吹きぬける突風にスカートをあおられる。
 もちろんすでに日は落ちている。とっぷりと暮れている。
 なにか暖かいものがほしい。
 でも、部屋に帰ってもひとり。空気は冷えきっているだろう。エアコンが暖まるまでの時間が哀しい。
 どこかに寄ってから帰ろう。
 どこに寄ろう? マック? スタバ? ミスド?
 私はポケットから携帯電話を取りだした。だれかにかけてみようか。
 思い浮かんだ顔は、今年の春に結婚したばかりの同級生。半月ばかり前に、妊娠したのよとうれしそうな声でかかってきた。
 私は電話をポケットにもどす。
 そのとき、立っていたサンドイッチマンと目が合ってしまった。もうサンタクロースの衣装を着こみ、新しいキャバレーの宣伝看板をさげ、四角い格好で立っている。
「気をつけて帰んな、お嬢ちゃん」
 サンドイッチマンが白い息を吐きながら、いった。

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