2009年11月11日水曜日

クリスマス・プレゼント

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----- Urban Cruising #21 -----

  「クリスマス・プレゼント」 水城雄


 五歳になったばかりの娘が、天井にむかって一生懸命お願いしている。
 サンタさん、どうかお人形のおうちをあたしにください。きっといい子にしてますから。
 もっと大きな声でいわないと、サンタさんに聞こえないわよ、と妻がいじわるをいっている。

 夕刻から雪が降りはじめている。
 ベタベタと重い雪で、まだ積もりそうにはない。が、気温がさがってきているのをみると、夜半には積もりはじめるかもしれない。
 明朝はスノータイヤが必要になるかもしれない。
 こごえそうなガレージでのタイヤの入れ替え作業のことは、想像しただけで気がめいってくる。
 あなた、お風呂にはいってきたら、と妻がいう。
 風呂からあがると、妻と娘が天井にお願いをしていた。
 ねえ、サンタさんて、どこから来るの?
 そういえば、うちには煙突などない。
 子どもの頃には、煙突のある家に住んでいた。といっても、風呂場の焚き口の煙突で、まだサンタクロースの存在を信じていた頃は、あんな細い煙突からサンタはどうやってはいってくるのだろう、と不思議に思っていたものだ。
 玄関からはいってくるのよ、ごめんくださいってね。
 妻がこたえている。
 じゃ、クリスマスの夜は玄関に鍵をかけちゃだめよ、おかあさん。
 だいじょうぶよ。ちゃんとお出むかえしてあげるから。
 ねえねえ、あたしもサンタさんをお出むかえしてあげたい。
 だめだめ。子どもは寝てなきゃ。こんな遅い時間まで起きてるような悪い子には、プレゼントをあげないぞっていわれるわよ。
 あたし、ちゃんと寝る。
 本当に積もらなければいいが、と思いながら、妻と娘の会話をぼんやり聞いている。

 テレビのニュースからはしきりに、「師走」という言葉が聞こえてくる。
 月末までにはまだ半月もあるというのに、なんとなく世の中はあわただしい。
 サンタさんはどこに住んでるの? と娘が妻にたずねている。
 絵本に書いてあったでしょ? フィンランドっていう国じゃない?
 あの絵本、あたし、好き。だってかわいいおもちゃがたくさん出てくるんだもん。でも、フィンランドって遠いところなんでしょ?
 そうよ。遠いところからサンタさんはやってくるのよ、トナカイのソリに乗って。
 あら、ちがうのよ、おかあさん。トナカイのソリに乗ってやってきたのは、昔のことなのよ。
 じゃ、今はどうするの?
 飛行機に乗って来るのよ。
 妻は笑いだす。
 へえ、だれに教えてもらったの、そんなこと?
 桃組のさっちゃん。だって、最近は昔より子どもも多いし、おもちゃもたくさんあるから、ソリなんかでは運べないのよ。だから飛行機に乗ってやってくるの。そのほうが早いし、寒くないから。
 そうね。去年、北海道に行ったときには、飛行機の中が暑くてこまったくらいだもんね。
 あたし、おぼえてるよ、飛行機に乗ったの。となりの席のおばちゃんに、チョコレートもらったの。でも、あのチョコ、あまりおいしくなかった。
 テレビ・ニュースには、ニューヨークかどこかのビルに取りつけられた、巨大なクリスマス・ツリーのイルミネーションが、大写しになっている。

 大きな声でいわなきゃだめよ、お願いは。と、妻が娘にいう。
 お外に出なくてもいいの、おかあさん?
 いいのよ。ちゃんと聞こえるのよ。でも、大きな声でね。
 サンタさん、どうかお人形のおうちをあたしにください。きっといい子にしてますから。
 クリスマス・プレゼントといえば、きまって思いだすひとつの光景がある。
 子どもの頃のイブの夜、興奮して眠れないので、起きて下に行ってみると、母親がひとりで黙々とプラモデルを組みたてていた。サンタクロースにお願いしたはずのリモコンの戦車だった。
 娘の人形の家は組みたてる必要はないが、そろそろ買いに行ってやらなければならない。そうして、娘に見つからないように、どこかに隠しておかなければならない。
 そういえば、娘が生まれてからは、妻にクリスマス・プレゼントを送らなくなってしまった。娘が生まれる前は、お互いになにか送りものをしたような記憶がある。なにを送ったのか、なにをもらったのか、もう忘れてしまったが。
 今年は、ひとつ、なにかプレゼントして、びっくりさせてやるかな。
 天井を向いて懸命に願いごとをとなえている娘。
 母親にむすんでもらったリボンが、頭のてっぺんでゆれている。
 こんな光景を、あと何回、見られることだろう。
 窓の外では、あいかわらず重い雪が降りつづいている。

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