2009年11月1日日曜日

じぃは今日も山に行く

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----- Jazz Story #27 -----

  「じぃは今日も山に行く」 水城雄


 じぃは今日も山に行く。
 痛めた膝をかばいながら。杖にすがって。
 晴れ渡った空。木々はすっかり葉を落としている。空には高く、オオタカが舞っている。じぃはオオタカの巣がある場所を知っている。なぜなら、オオタカの巣の近くに、毎年大きなマイタケが出る木株があるからだ。
 オオタカの鳴き声が空から降りてくる。それはときに、じぃの嫌いな音楽のように聞こえることがある。
 じぃは空を見上げ、顔をしかめる。オオタカに鳴くのをやめよといっているみたいに。
 じぃのひとり息子は音楽をなりわいとしているらしい。じぃはそれが嫌なのだ。いや、そもそも、音楽自体が気にいらない。わけがわからない。そんなものをメシの種にする人種など、とうてい信用することができない。
 じぃは今日も山に入る。マイタケを狩り、山芋を掘る。
 じぃの一日の稼ぎは、息子の嫁が家でやっているデータ入力の仕事よりも安いほどだ。
 しかし、今日も膝をかばいながら、じぃは通いなれた山道を分け入っていく。

 オオタカの巣の近くのマイタケは、今年はもう採ってしまった。
 今年も大きなマイタケが採れた。じぃはその場所をだれにも教えていない。
音楽をやっている息子にも教えない。
 だから、じぃはマイタケの株を通りすぎて、もっと山の上まで登っていく。
 汗がポタ、ポタ、と、ミズナラの枯葉の上に落ちる。
 またオオタカの鳴き声が聞こえた。
 じぃは顔をしかめ、家にいる息子の嫁のことを考えた。
 もちろん、音楽なんぞで食えるわけがない。じぃの息子なのだ。才能がないことはわかっている。しかし、どんな夢を見ていることやら、息子はふわふわと生きている。嫁はカネにならない内職に精を出している。大きな腹を抱えて。
 前から目をつけていた山芋のツルのところまでやってきた。
 じぃは手ぬぐいで汗を拭くと、小鍬を手にして土を掘りはじめた。
 ザク、ザク、ザク。
 山芋は大きいだろうか。いくらで売れるだろうか。そしてじぃは、生まれてくる赤ん坊のことを思う。
 頭上高く、オオタカの泣き声が聞こえる。

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