2019年10月25日金曜日

水色文庫について

ここに掲示するテキストの著作権は水城ゆうに帰属しますが、朗読(音読)についての著作使用権は解放します。朗読会、朗読ライブ、朗読教室、その他音声表現活動などで自由にお使いください。
その際、イベント内容についてひとことでかまいませんので、メールやコメントなどでお知らせいただけると、著作権者にとって望外の喜びとなります。

「水色文庫」の作品は電子ブック『祈る人』シリーズとしてアマゾンKindleから出版されています。こちらもご利用ください。

水城ゆうによる現代朗読ゼミやワークショップは、こちら〈現代朗読協会〉で開催されています。

既掲載作品
◎世界を切りとる
「砂漠の少年」「Milagro」「Kalimba Man」「Thank You So Much」「リサ」「農夫」「この河」「Even If You Are My Enemy」「Him」「Depth」「Swallowed in the Sea」「Bangkok」「An Octpus」「コンテナ」「待つ」「きみは星々の声を聞いている」「かなたから来てここにたどり着く」「ビッグウェーブ・サーファー」
◎日常
「Lookin' UP」「Bird Song」「温室」「初霜」「猫」「Time After Time」「Cat's Christmas」「水族館」「眠らない男(人)」「Solar」「Love Letters」「じぃは今日も山に行く」「サンタの調律師」「人形」「プール」「クリスマス・プレゼント」「Something Left Unsaid」「Start」「親知らず」「ひとり、秋の海を見る」「京都という街へのタイムスリップ」「とぼとぼと」「先生への手紙」「Solitary Woman」「Come Rain Or Come Shine」「Here's That Rainy Day」「締切り」「Dancin' On The Door」「おばあちゃん」「High Life」「You Gatta Mail」「Morning Plain」「五年ぶりの電話」「Someday My Prince Will Come」「爪を切る」「Heaven Can Wait」「The Pursuit of the Woman with the Featherd Hat」「ダイエット」「妻のいない日、ひとり料理を作る」「きみを待つぼくが気にかけること」「ラジオ局」「I'm Grad There Is You」「At the Platform」「Soon」「左義長」「A Flying Bird in the Dark」「単独行」「おまえの夏休みの宿題に父は没頭する」「豆まき」「コーヒー屋の猫」「自己同一性拡散現象」「ラジオを聴きながら」「蛍」「The Woman of Tea」「今朝の蜜蜂は羽音低く飛ぶ」「薪を割る女、蜜蜂」「暗く長い夜、私たちは身を寄せあって朝を待つ」「世界が眠るとき、私は目覚める」「かそけき虫の音に耳をすます」「編む人」
「悲しみの壁に希望を探す」「きみは星々の声を聞いている」「かなたから来てここにたどり着く」「遠くからやってきた波に乗るということ」「夏の思い出」
「肌にあたる海水の冷たさを思い唇がほころぶ」
◎メッセージ
「祈る人」「気分をよくして」「先生への手紙」「Fourteen」「雨のなかを」「古い友人への手紙」「A Red Flower」「眠らない男(人)」「雨の女」「I Am Foods」「祈り」「The Green Hours」「You Gatta Mail」「僕はスポーツ」「先生への手紙」「When It Rains」「Ranmaru Blues」「とぼとぼと」「ダイエット」「Miracle of the Fishes」「あめのうみ」「安全第一」「Ba-Lue Bolivar Ba-Lues-Are」「Why Do You Pass Me By」「Majisuka Police」「An Old Snow Woman」「The Sound of Forest」「The Night Has a Thousand Eyes」「Cat Plane」「青い空、白い雲」「朝はきらいだ」「Airplane」「A Flying Bird in the Dark」「捨てる」「共同存在現象」「しょぼんでんしゃ」「人像(ヒトガタ)」「歌う人へ」「亀」「また君は恋に堕落している」「死に向かう詩情」「自転車をこぐ」「飛んでいたころ」「身体のなかを蝶が飛ぶ」「ふとんたたき」「おんがくでんしゃ」「コップのなかのあなた」「ゼータ関数の非自明なゼロ点はすべて一直線上にある」「イカ墨はえらい」「祝祭の歌」「帰り道」「繭世界」「朗読者」「舞踏病の女」「移行」「夜と朝をこえて」「待つ」「暗く長い夜、私たちは身を寄せあって朝を待つ」
「悲しみの壁に希望を探す」「マングローブのなかで「クラリネット」
◎不思議な話
「Three Views of a Secret」「Death Flower」「How Deep Is the Ocean」「ある夏の日のレポーター」「眠らない男(人)」「失われし街」「洗濯女」「タイム・トラベラー」「Smile of You」「手帳」「Depth」「Lonely Girl」「The Pursuit of the Woman with the Featherd Hat」「Oni」「階段」「ギターを弾く少年」「ふたつの夢「ひとつめの夢」」「ふたつの夢「ふたつめの夢」」「木漏れ日のなかで」「暗く長い夜、私たちは身を寄せあって朝を待つ」「夏の思い出」「ボトム・クオークの湯川結合で見えてきたタイムトラベルの可能性」
子どものころの七つの話
 「一 風呂の焚きつけの薪の話」
 「二 川に流された妹の話」
 「三 父と釣りに出かけた話」
 「四 ミミズの話」
 「五 蜂に刺された話」
 「六 夏の話」
 「七 砂場の糞の話」
「見えますか、私?」「きのこ女」「夜と朝をこえて」「ベニテングタケ子の好奇心」「世界が眠るとき、私は目覚める」「ロード・オブ・ザ・カッパン」「ファラオの墓の秘密の間」
◎思考
「砂時計」「講演」「The Underground」「コップのなかのあなた」
◎音楽
「Three Views of a Secret」「Night Passage」「Lookin' UP」「Solar」「How Deep Is the Ocean」「サンタの調律師」「Blue Monk」「雪原の音」「Come Rain Or Come Shine」「Here's That Rainy Day」「セカンドステージ」「アンリ・マティスの七枚の音(1)」「アンリ・マティスの七枚の音(2)」「The Underground」「ギターを弾く少年」
◎男と女
「Milagro」「Night Passage」「彼女が神様だった頃」「Lookin' UP」「移動祝祭日」「How Deep Is the Ocean」「Thank You So Much」「Cat's Christmas」
 「Nearness of You」
「眠らない男(人)」「雨の女」「Blue Monk」「航跡」「沖へ」「Smile of You」「夏の終わり、遊覧船に乗る」「The Green Hours」「嵐の中の温泉」「ねむるきみと霧の中を通って」「セカンドステージ」「It Might As Well Be Spring」「I'm Grad There Is You」「Oni」「The Woman of Tea」「ベニテングタケ子の好奇心」「夏の思い出」
◎シナリオ
「初恋」「沈黙の朗読——記憶が光速を超えるとき(1)」「沈黙の朗読——記憶が光速を超えるとき(2)」「沈黙の朗読——記憶が光速を超えるとき(3)」「特殊相対性の女(1)」「特殊相対性の女(2)」「特殊相対性の女(3)」「祈り」「群読シナリオ「前略・な・だ・早々」(1)」「群読シナリオ「前略・な・だ・早々」(2)」「群読シナリオ「前略・な・だ・早々」(3)」「群読シナリオ「Kenji」(1)」「群読シナリオ「Kenji」(2)」「群読シナリオ「Kenji」(3)」「ギターを弾く少年」
◎未来
「Night Passage」「Blue Monk」「The Burning World」「The Sound of Forest」「きみは星々の声を聞いている」「かなたから来てここにたどり着く」「アルチュール」「南へ」「ボトム・クオークの湯川結合で見えてきたタイムトラベルの可能性」
◎海とヨット
「迷信」「彼女が神様だった頃」「移動祝祭日」「Thank You So Much」「ぼくらは悲しみを取りかえる」「彼女の仕事」「嵐が来る日、ぼくたちはつどう」「航跡」「沖へ」「夜の音」「夜に聞くデッキの雨の音」「梅雨の合間に聴くマーチ」「コンテナ」「マングローブのなかで」「遠くからやってきた波に乗るということ」「落雷」「ビッグウェーブ・サーファー」
「肌にあたる海水の冷たさを思い唇がほころぶ」

著者からのお知らせ 2019.10.5

水城の末期食道がんについての経過や病状についての専門家の所見については、こちらをご覧ください。


◎10月27日:臨時朗読ゼミ(水城ゼミ)
ゼミ生が個人レッスンを受けるタイミングで臨時の現代朗読ゼミを開催します。身体表現あるいは音楽としての朗読を楽しみましょう。10月27日(日)10時半から約2時間。

※参加申し込みおよび問い合わせは、こちらから。


◎11月1日:現代朗読ワークショップ@名古屋
連続ワークショップのドキュメンタリーと映像作品としての群読パフォーマンスの撮影はこの日をもってクランクアップとなります。ワークショップも最終回。これまで継続して参加してきた方も、今回かぎりの初参加の人も、ともに歓迎です。

※参加申し込みおよび問い合わせは、こちらから。

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2019年8月17日土曜日

肌にあたる海水の冷たさを思い唇がほころぶ

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   肌にあたる海水の冷たさを思い唇がほころぶ

                           水城ゆう


 何度もなんども「これは夢ではない、リアルな現実に起こっていること」と確認している夢からさめると、自分がまだ生きていて、汗をかきながら浅い呼吸をしていることに気づいた。
 呼吸をするたびに胸の奥のにぶい痛みが脈動するように感じるのは、錯覚だ。
 最初は不整脈だと思った。だからハートクリニックに行ってみたりした。心電図をとり、ホルダー検査までした。「食道かもしれませんよ」という医師のことばを聞きながしていたことを、いまさら思いだす。
 呼吸と連動する痛みは肋間神経痛だ。それがどのようなメカニズムで発生するのかは知らないが、何度も経験している。息を吸うのがつらいほどのこともあった。いま息を吸うときに痛みに身構えてしまうのは、たんなる痛覚記憶による反射反応にすぎない。
 起きあがって枕元においたポーチから錠剤をつまみだす。ロキソニンひと粒で胸の奥の爆弾がいまのところ静まってくれるように思える。そのまま消えてなくなればいいのに、という常套的な願い言葉が頭の内側でこだまする。
 備えておいた水筒の水で薬を飲みくだす。いまのところ、水は支障なく飲める。
 ブラインドの角度を変えて光をいれると、椰子の木の影の角度からすでに午前七時をまわっていることがわかる。波打ち際をカモメが鳴き声も立てずにふわりと飛びすぎていく。風は強くないらしい。そのくせ波が高いのは、台風が近づいているという予報を裏付けしているのかもしれない。
 今日はなにしよう。
 問うまでもなく、うねりをともなった波が朝食前の私を呼んでいる。
 その前に、コーヒーを一杯。
 あと半年とか、あと数か月とか、限定的な余命を告げられたとき、人はそれまでとは違うなにごとかをやりたくなるらしい。行ったことのない場所に旅行するとか、食べたことのないものを食べに行くとか、会いたかった人に会いに行くとか、がまんしていた遊びに打ち興じるとか、なにか知らないけれど快楽にふけるとか。
 私は違うことをやりたくなる前に毎日が違うように見えはじめたので、違うことをやる必要がなくなった。コーヒーをいれることだって、昨日と今日とでは感じが全然違う。コーヒーが変わるのではなく、自分が変わるのだ。昨日の自分と今日の自分は全然違う人間だし、違う現象だ。
 そんなことは前から知っていたはずなのに、ちゃんとわかってはいなかった。限定的な余命を告げられなければそれが身体に落ちてこなかったなんて、どれほどおろかだったんだ、自分、と私は思う。
 もっといえば、限定的な余命だって、すべての人がそうだし、私だって生まれて以来ずっとそうだったはずで、なにも医者から余命を告げられたいまにかぎったことではない。
 ほんとにばか。
 パジャマを脱ぎ、生理用ナプキンを引きだしから出そうとして、生理はすでに終わっていたことを思いだす。
 ほんとにばか。かわいくすらある。
 あと何日、波に乗れる? ウェットスーツのすきまにはいりこんでくる最初の海水の冷たさを予想しながら、私の唇はほころびている。