2018年7月22日日曜日

著者からのお知らせ 2018.7.22

8月2日と3日の2日間連続で共感文章講座(オンライン)を開催します。
メールやLINE、SNSでのテキストコミュニケーションにおいて、共感的コミュニケーション(NVC)の方法をもちいてお互いに尊重をもってつながりあう文章表現を練習するための、全2回の講座です。
詳細と申し込みはこちら

2018年7月7日土曜日

水色文庫について

ここに掲示するテキストの著作権は水城ゆうに帰属しますが、朗読(音読)についての著作使用権は解放します。朗読会、朗読ライブ、朗読教室、その他音声表現活動などで自由にお使いください。
その際、イベント内容についてひとことでかまいませんので、メールやコメントなどでお知らせいただけると、著作権者にとって望外の喜びとなります。

「水色文庫」の作品は電子ブック『祈る人』シリーズとしてアマゾンKindleから出版されています。こちらもご利用ください。

水城ゆうによる現代朗読ゼミやワークショップは、こちら〈現代朗読協会〉で開催されています。

既掲載作品
◎世界を切りとる
「砂漠の少年」「Milagro」「Kalimba Man」「Thank You So Much」「リサ」「農夫」「この河」「Even If You Are My Enemy」「Him」「Depth」「Swallowed in the Sea」「Bangkok」「An Octpus」「コンテナ」「待つ」「きみは星々の声を聞いている」「かなたから来てここにたどり着く」
◎日常
「Lookin' UP」「Bird Song」「温室」「初霜」「猫」「Time After Time」「Cat's Christmas」「水族館」「眠らない男(人)」「Solar」「Love Letters」「じぃは今日も山に行く」「サンタの調律師」「人形」「プール」「クリスマス・プレゼント」「Something Left Unsaid」「Start」「親知らず」「ひとり、秋の海を見る」「京都という街へのタイムスリップ」「とぼとぼと」「先生への手紙」「Solitary Woman」「Come Rain Or Come Shine」「Here's That Rainy Day」「締切り」「Dancin' On The Door」「おばあちゃん」「High Life」「You Gatta Mail」「Morning Plain」「五年ぶりの電話」「Someday My Prince Will Come」「爪を切る」「Heaven Can Wait」「The Pursuit of the Woman with the Featherd Hat」「ダイエット」「妻のいない日、ひとり料理を作る」「きみを待つぼくが気にかけること」「ラジオ局」「I'm Grad There Is You」「At the Platform」「Soon」「左義長」「A Flying Bird in the Dark」「単独行」「おまえの夏休みの宿題に父は没頭する」「豆まき」「コーヒー屋の猫」「自己同一性拡散現象」「ラジオを聴きながら」「蛍」「The Woman of Tea」「今朝の蜜蜂は羽音低く飛ぶ」「薪を割る女、蜜蜂」「暗く長い夜、私たちは身を寄せあって朝を待つ」「世界が眠るとき、私は目覚める」「かそけき虫の音に耳をすます」「編む人」
「悲しみの壁に希望を探す」「きみは星々の声を聞いている」「かなたから来てここにたどり着く」「遠くからやってきた波に乗るということ」
◎メッセージ
「祈る人」「気分をよくして」「先生への手紙」「Fourteen」「雨のなかを」「古い友人への手紙」「A Red Flower」「眠らない男(人)」「雨の女」「I Am Foods」「祈り」「The Green Hours」「You Gatta Mail」「僕はスポーツ」「先生への手紙」「When It Rains」「Ranmaru Blues」「とぼとぼと」「ダイエット」「Miracle of the Fishes」「あめのうみ」「安全第一」「Ba-Lue Bolivar Ba-Lues-Are」「Why Do You Pass Me By」「Majisuka Police」「An Old Snow Woman」「The Sound of Forest」「The Night Has a Thousand Eyes」「Cat Plane」「青い空、白い雲」「朝はきらいだ」「Airplane」「A Flying Bird in the Dark」「捨てる」「共同存在現象」「しょぼんでんしゃ」「人像(ヒトガタ)」「歌う人へ」「亀」「また君は恋に堕落している」「死に向かう詩情」「自転車をこぐ」「飛んでいたころ」「身体のなかを蝶が飛ぶ」「ふとんたたき」「おんがくでんしゃ」「コップのなかのあなた」「ゼータ関数の非自明なゼロ点はすべて一直線上にある」「イカ墨はえらい」「祝祭の歌」「帰り道」「繭世界」「朗読者」「舞踏病の女」「移行」「夜と朝をこえて」「待つ」「暗く長い夜、私たちは身を寄せあって朝を待つ」
「悲しみの壁に希望を探す」「マングローブのなかで
◎不思議な話
「Three Views of a Secret」「Death Flower」「How Deep Is the Ocean」「ある夏の日のレポーター」「眠らない男(人)」「失われし街」「洗濯女」「タイム・トラベラー」「Smile of You」「手帳」「Depth」「Lonely Girl」「The Pursuit of the Woman with the Featherd Hat」「Oni」「階段」「ギターを弾く少年」「ふたつの夢「ひとつめの夢」」「ふたつの夢「ふたつめの夢」」「木漏れ日のなかで」「暗く長い夜、私たちは身を寄せあって朝を待つ」
子どものころの七つの話
 「一 風呂の焚きつけの薪の話」
 「二 川に流された妹の話」
 「三 父と釣りに出かけた話」
 「四 ミミズの話」
 「五 蜂に刺された話」
 「六 夏の話」
 「七 砂場の糞の話」
「見えますか、私?」「きのこ女」「夜と朝をこえて」「ベニテングタケ子の好奇心」「世界が眠るとき、私は目覚める」「ロード・オブ・ザ・カッパン」
◎思考
「砂時計」「講演」「The Underground」「コップのなかのあなた」
◎音楽
「Three Views of a Secret」「Night Passage」「Lookin' UP」「Solar」「How Deep Is the Ocean」「サンタの調律師」「Blue Monk」「雪原の音」「Come Rain Or Come Shine」「Here's That Rainy Day」「セカンドステージ」「アンリ・マティスの七枚の音(1)」「アンリ・マティスの七枚の音(2)」「The Underground」「ギターを弾く少年」
◎男と女
「Milagro」「Night Passage」「彼女が神様だった頃」「Lookin' UP」「移動祝祭日」「How Deep Is the Ocean」「Thank You So Much」「Cat's Christmas」
 「Nearness of You」
「眠らない男(人)」「雨の女」「Blue Monk」「航跡」「沖へ」「Smile of You」「夏の終わり、遊覧船に乗る」「The Green Hours」「嵐の中の温泉」「ねむるきみと霧の中を通って」「セカンドステージ」「It Might As Well Be Spring」「I'm Grad There Is You」「Oni」「The Woman of Tea」「ベニテングタケ子の好奇心」
◎シナリオ
「初恋」「沈黙の朗読——記憶が光速を超えるとき(1)」「沈黙の朗読——記憶が光速を超えるとき(2)」「沈黙の朗読——記憶が光速を超えるとき(3)」「特殊相対性の女(1)」「特殊相対性の女(2)」「特殊相対性の女(3)」「祈り」「群読シナリオ「前略・な・だ・早々」(1)」「群読シナリオ「前略・な・だ・早々」(2)」「群読シナリオ「前略・な・だ・早々」(3)」「群読シナリオ「Kenji」(1)」「群読シナリオ「Kenji」(2)」「群読シナリオ「Kenji」(3)」「ギターを弾く少年」
◎未来
「Night Passage」「Blue Monk」「The Burning World」「The Sound of Forest」「きみは星々の声を聞いている」「かなたから来てここにたどり着く」
◎海とヨット
「迷信」「彼女が神様だった頃」「移動祝祭日」「Thank You So Much」「ぼくらは悲しみを取りかえる」「彼女の仕事」「嵐が来る日、ぼくたちはつどう」「航跡」「沖へ」「夜の音」「夜に聞くデッキの雨の音」「梅雨の合間に聴くマーチ」「コンテナ」「マングローブのなかで」「遠くからやってきた波に乗るということ」「落雷」

落雷

(C)2018 by MIZUKI Yuu All rights reserved
Authorized by the author

   落雷

                           水城 雄


 中継地の桟橋沖を通過したとき、二、三の人影がこちらに向かって手を振り、なにかいっているのが見えたが、僕もジョエルもそれを無視して下手《しもて》のマークへと直進した。
 風はアビームからややのぼりぎみ。ときおりやってくるブローに合わせてハイクアウトし、艇のバランスをたもつ。つま先をフットベルトに引っかけ、尻はほとんどデッキの外にはみだすほど身体をそらす。船首が立てる波しぶきと、二十分ほど前から降りしきっている雨つぶが、眼をあけていられないほど顔面をたたく。
 ヨットはいま右舷開き《ポートタック》で走っている。風が左へと振れていく。これ以上振れると、マークまでのぼりきれなくなって、方向転換《タック》が必要になる。舵棒《ティラー》を握っているジョエルはぎりぎりまでのぼらせようと、メインセールを引きこみ、自分もハイクアウトして艇を起こしにかかる。
 まだ五時前なのに、日暮れすぎのように暗い。湖の四方を囲んでいる山の稜線が、雨のせいもあってほとんど見えなくなってきた。たまに稲光がそちらの方角の稜線だけをくっきりと浮かびあがらせる。
 雨のせいで雷鳴の輪郭もぼやけている。
 下手のマークをノータックでかわした。レースは桟橋沖をスタートラインに、時計回りに下手マーク、中島、上手マーク、そして桟橋に戻る。これで一周。順風なら一時間弱の一周を二十四時間で何周できるか、あるいは二十四時間以内に二十四周回を先に終えたチームがフィニッシュというルール。
 午前十時にスタートして、この周回が十周めとなる。今日は風がある。とくに前線が近づいてきて風が強まり、強風のなか雨になった。
 ストームウェアをふたりともあわてて着こんだ。風がくるくる回って気を許せない。
 気がついたら並走しているレース艇はいなくなっている。そういえば、桟橋にセールを下ろしてつないでいる二艇があった。ほかにもすでに何艇かリタイアしたチームがありそうだ。
 桟橋で叫んでいたのは、レース中断を告げる声だったのかもしれない。
 ジョエルはまだ戻るつもりはないらしい。下手のマークをかわし、中島へと向かうコースは、風が真追っ手になった。急に波切り音が静かになる。それでもスピードはかなりのはずで、真横に広げたメインセールは後ろからの風をいっぱいに受け、ヨットを前のめりに押しだしていく。
 左手の稜線が鋭く光った。
 二、三、四……
 僕は数える。
 五と数えかけたところで雷鳴が聞こえた。
 まだ遠いな、と思ったとき、また光った。だいぶ明るく光った。
 一、二……雷鳴。
 雨が小降りになったようだが、追い風のせいでそう感じるだけかもしれない。引き波を見れば、艇がかなりスピードをあげていることがわかる。
 薄眼で見上げると、マストのてっぺんにはぐしょ濡れになった風見がへばりついている。マストはいかにもなにかを誘っているかのように、前後に揺れている。
 ジョエルは心配しているようすもない。ただまっすぐ中島をにらんでティラーをあやつっている。桟橋のほうをうかがったが、暗い雨のむこうになにも確認できなかった。
 また光った、と思った瞬間、衝撃と同時に目の前数百メートルの水面に電撃の柱が立った。ほんのわずかにとがった波頭に落ちたのだ。これくらい近いと、なにか乾いたものが耳元で破裂したような衝撃だった。
 ジョエルが僕を振りかえって、腹の底から笑いはじめた。僕も笑った。
「これにオチなくてヨカッタねー」
 ふたりで笑いころげる。
 あとで知ることになるが、僕らがレース中止、緊急避難の警告を無視して走りつづけたことで、本部の運営はかんかんになっていた。

2018年3月11日日曜日

遠くからやってきた波に乗るということ

(C)2018 by MIZUKI Yuu All rights reserved
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   遠くからやってきた波に乗るということ

                           水城ゆう


 向かい風でびゅんびゅん飛んでくる砂粒《すなつぶ》を頰に感じながら、浜を横切り波打際《なみうちぎわ》に降りていくと、白く泡立った波が最後まで白いまま足元に打ち寄せる。
 リーフブーツに染みこんだ海水が今日の水温の低さを伝えてくる。
 半分白くなった髪が強風にあおられる。もう砂粒は飛んでこないかわりに、冷たい飛沫が唇に塩気《しおけ》を運んでくる。
 風と、いったん高くそびえ立った波がくだけて海面をうつ音が、耳を聾《ろう》さんばかりだ。かまわずざぶざぶと、サーフボードを水にさらわれないように高くかかえあげながら、沖へと進んでいく。
 浜には人っこひとりいない。
 日はすでにのぼっているが、雲にさえぎられている。雲は速い動きで全天をおおったまま沖から陸の方角へと流れている。
 ウェットスーツのすきまにはいりこんでくる海水は、ちぢみあがりそうに冷たい。が、それも一瞬のことだとわかっている。体温が水をあたため、そこにとどまり、身体をつつむ。
 海面の位置が腰のあたりまで来たとき、彼はサーフボードを水面に寝かせ、その上に上半身を乗せた。沖に向かって両手でパドリングをはじめる。

 校庭の水飲み場で手を洗っていると、クラスメートのありすがやってきた。
 横にならんで、蛇口をひねり、手を洗いはじめる。
「あやちゃん、もう帰り?」
 手を洗わなきゃならないことなんてなにもしてないはずだけどな、ありすは、と思いながら、あやかはうなずく。
「うん」
「昨日、風間くんに告《こく》られたんだって?」
 唐突に聞かれる。だれから聞いたんだろう、まさか風間くん、みんなに宣伝してまわってるわけじゃないよね。
 逃げられないと思ったので、正直に答える。
「うん」
「付き合うの?」
 ありすも風間くんのことが好きなんだろうか。蛇口を閉めながら彼女を横目で見てみる。ありすは前を向いたまま、流れおちる水に両手を突っこんでいる。
 なるほど、好きなんだな。
「付き合わないよ。興味ないもん」
「風間くんに?」
「男に」
「やっぱ慶応めざしてんの?」
「なんで?」
「だって、あやちゃんち、パパもお兄さんも慶応でしょ?」
 人んちの事情、よく知ってるなー。でも、わかんないよ、進学のことなんて、まだ。進学どころか、いまこの瞬間だって自分がどうしたいのかわからないというのに。
「落ちこぼれのわたしが慶応なんか無理むり」
「またご冗談を」
「じゃ、お先に。また明日ね。ばいばい」
 ついでにいうなら、おじいちゃんも慶応だ。

 波高は三メートル弱というところか。風が強いわりには波はちいさい。しかも海風だ。
 日本海側に低気圧が通過中で、南風はまだしばらくつづくだろうから、午後から明日にかけてもうすこし波は高くなるかもしれない。
 明日も来るか? 今日は体力を温存して、あがるか。
 彼はひとり、苦笑する。まだ一本も乗っていないのに、もう帰る算段か。
 ひとつ、ふたつ、みっつと波をやりすごし、沖へ、沖へと出る。
 沖に向かって右側、湾の西側に、嘴《くちばし》のように張り出した岬があり、そこから目には見えないけれど海中に長く張り出した砂州《さす》がある。沖からやってきた波はそこで大きく持ちあげられる。うまくつかまえれば、浜の浅瀬にぶつかって崩れるところまで持ってこれる。
 今日は海風で乗りにくいが、何本かはうまくつかまえられそうだ。
 パドリングでポイントまで来ると、ボードにまたがって、いったん息をととのえる。
 還暦をすぎたら、あらたにチャレンジするスポーツはサーフィンと決めていた。いまさらぬるいスポーツはごめんだ。おとろえゆく身体こそ使いきってみたい。若いころ、マリンスポーツはいくつか経験があった。とくにヨットは学生時代に小型のディンギーをかなりやりこんだ。レースにも何度も出た。ウインドサーフィンもすこしだけ経験があった。が、サーフィンは機会にめぐまれなかった。いまこそそのときだと、還暦をむかえた年の秋、浜から海水浴客の姿がなくなるころを見計らって、サーフショップをたずねた。
 最初はレンタルで、そして孫のような年頃のコーチについて、基礎を教わった。いまはウェアもボードも自前で、そしてひとりで通っている。それが気にいっている。
 よさそうな海水の盛り上がりがゆっくりとこちらに近づいてくるのを確認して、彼はボードの上に身体を横にすると、波に背をむけてパドリングをはじめる。

 帰宅するとパパがエプロンをつけて夕飯の支度《したく》をしている。めずらしい光景じゃない。いうとびっくりする人がいるけれど、あやかにとっては小学生のころから見慣れている。
 ママが死んだのは小学二年の冬。
「今日はなに?」
 聞くと、ぶっきらぼうに返ってくる。
「さよりの天ぷら。豪華具沢山のミソスープもあるぞ。食うだろ?」
「にいちゃんは?」
「五時半もどり。だから、仕上がり予定もそのへん」
「置いといて。ちょっと遅くなるかも」
「出かけるのか?」
「気分転換」
「いつもの、な。また煮詰まったか」
「休みなの?」
「早退。風邪気味かもって嘘ついて帰ってきた」
 小学生ですか、とあやかは思う。そして、見抜かれてるな、とも思う。たしかに煮詰まってる。
 制服から着替えると、出かける支度をする。
「行ってくるね。帰りはたぶん六時すぎ」
 どこへ、とは聞かれない。しかし、
「今日は海風だぞ」
 背中にいわれてまた、見抜かれてる、と思う。

 四本めくらいだったか、いい感じに乗れた。足裏――といってもリーフブーツの底だが――がぴたっとボードに吸いつき、腰が低く安定する。右の肘と右の膝、左の肘と左の膝が、まるでゴムバンドでつながっているように連動する。ほんのわずかな体重移動でサーフボードが大きく弧を描いて転換する。最後は波頭を突っ切って、ボードごと自分を空中に放りだす。
 宙を舞いながら頰に波しぶきを受け、雲間からのぞいた日の光を目撃し、迫りくる泡だった海面に手をのばす。
 着水の瞬間、砂浜に人影があるような気がしたが、そんなことはもうどうでもいい。水面に顔をだし、ボードを抱えこむと、ふたたび沖にむかって漕ぎ出す。
 波に乗りたいというより、そのまま水平線の向こうまで、命のかぎり漕ぎ続けたい衝動にかられる。

 だれかに会うといろいろ聞かれそうなのが嫌なので、直接ボードロッカーに向かった。水着にはもう家で着替えてある。
 ひとけはなく、サーフボードを引っ張りだしてもだれからも声をかけられなかった。そりゃそうだろう、シーズンにはほど遠いまだ冬といってもいい時期の、午後の遅い時間。だれが波乗りに来るというのだ。
 ところが、浜に出てくると、沖に人影があった。
 ひとめでわかった。
 おじいちゃん。
 力強いストロークで、沖に向かっている。
 そうそう、そっちにいいポイントがあるよね。知ってるよ。
 ところがポイントをすぎても、彼はいっこうにパドリングをやめようとしない。どんどん沖へと向かっていく。
 あやかは小走りに海にはいると、ボードに身体を投げ出すようにして、彼のあとを追う。
 学校? 進学?
 どうだっていい。
 おじいちゃん、あんなに遠くに漕ぎ出してる。
 追いつこう。