2009年11月6日金曜日

雨の女

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----- MIZUKI Yuu Sound Sketch #61 -----

  「雨の女」 水城雄


 雨が降り出した。
 ぽつり、ぽつり、ぽつり。
 雨は嫌いだ。雨が降ると私の心も身体も流れて行く。
 雨は嫌い。だから、早く来て欲しい。

 彼が来た。私の願いが通じた。
 彼が傘を差しかけてくれる。雨に濡れた私の身体を拭いてくれる。
 彼の手が私に触れる。私は彼の指を感じる。彼の優しい指が、私の肌に触れる。
 彼の指が私の腕をなでる。彼の指が私の指に触れる。まるで私の肌が波立つように、そこから心地良さが生まれて、私の身体のなかを通り抜けていく。
 私は思わずため息を漏らす。
 私は彼のために生きている。彼がいなければ私は生きていることができない。彼が触れてくれなければ私は自分の存在を確かめることができない。彼が触れていないとき、私は存在していないも同然だ。
 彼の指が私の肩をなぞる。私は自分の肩の形を意識する。
 彼の指が私の乳房をなぞる。私は自分の乳房の形を意識する。そして快感に思わず声をあげる。
 あああ。

 やがて彼は私から離れていく。
 行かないで。懇願する私を彼は置き去りにする。私はまたひとりぼっちで取りのこされる。
 風が吹いてきた。
 あ、傘が飛ばされた。
 大粒の雨が容赦なく私に降りそそぐ。彼がそのことに気づいて戻ってきてくれることを私は願う。しかし、私の願いは彼に届かない。彼はもう遠くに行ってしまった。
 雨粒が私に降りそそぎ、私を濡らしていく。
 雨粒が私のなかにしみこんでいく。彼によってかろうじて形を保っていた私の身体に、容赦なくしみこんでいく。もろくも私の身体は溶けくずれていく。腕も肩も乳房も、顔も耳も頭も、みんな雨によって崩れ、雨水とともに流れていく。
 雨はどんどん強くなる。
 私の身体はいまや濡れて汚らしい灰色の砂山にしかすぎない。
 流されていく私は、雨水とともに海に流れこみ、砂浜の一部にもどっていく。
 私は、また彼が、砂浜の砂で、私を、作ってくれる、こと、を、願う、の、み。

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