2009年11月7日土曜日

人形

(C)2009 by MIZUKI Yuu All rights reserved
Authorized by the author

----- Urban Cruising #30 -----

  「人形」 水城雄


 やけににぎやかだと思ったら、テレビでは蜂蜜まみれになったクマのプーさんが、蜜蜂たちに追いかけられて大騒ぎを演じているところだった。
 やがて六歳にもなろうというぼくの息子は、かじりつくようにしてテレビに見いっている。
 このビデオ、もう何回見たことかわからない。
 風船が破裂したクマのプーさんは、その勢いで木にぶつかりそうになったり、地面をかすめたりしながら、猛烈な勢いで飛びまわっている。そのあとを、黒い雲のようになった怒り狂った蜜蜂の集団が、ブンブンとうなりながら追いかけていく。クマのプーさんは、無邪気にも木の洞(ほら)のたまった蜂蜜に手を突っこんでむさぼりなめたため、蜜蜂たちの怒りを買ってしまったのだ。
 やがて風船はしぼんでしまい、プーさんはあえなく墜落。が、しつこい蜜蜂はなおもプーさんに襲いかかってくる。
 心やさしい少年のクリストファーが、木の根っこにつまづいてころんだプーさんをひっつかみ、逃げる、逃げる。もとはといえば、プーさん、クリストファーに貸してもらった風船で、高い木の洞にある蜜蜂の巣までのぼったのだ。
 クリストファーとプーさんは、蜜蜂に追われて、とうとうどろんこの水たまり
に飛びこむはめになってしまった。うまい具合に持っていた傘をクリストファーが広げ、蜜蜂の大群の急降下爆撃をかろうじてかわした。
 大人が見てもおもしろい。子供が夢中で見るのもあたりまえだ。
 ほかにもディズニーのアニメビデオを、息子はたくさん持っている。ミッキーマウス、ドナルド・ダック、チップとデール、プルート、グーフィー、白雪姫、シンデレラ、ピノキオ、ダンボ。数えあげたら、きりがない。
 その中でも、息子はとりわけ、クマのプーさんが気にいっているようだ。
 画面では、難をのがれたプーさんが、今度はうさぎの家に行って蜂蜜をせびりはじめている。

 足を折り畳み、背中を丸めてペタンと尻をおとし、まるでおばあちゃんみたいな格好ですわりこんでいる。目はテレビ画面に釘づけになったままだ。
 生まれたときからなんだか暢気な性格で、おぼこいというか幼稚というか、とにかく子供っぽい。これでもう六歳になろうというんだから、おどろきだ。
 考えてみれば、そうなんだ、来年は小学校に入学だ。いつのまにこんなに大きくなってしまったんだろう。こんな赤ちゃんの延長みたいな性格で、ちゃんと集団生活が送れるんだろうか。クマのプーさんなんかいつまでも喜んでみていて、いいんだろうか。
 プーさんといえば、この子が生まれたとき、お祝いにぬいぐるみの人形をいくつかいただいた。その中に、クマのぬいぐるみがあった。灰色のクマで、サンディーという名前がついていた。
 いまでもそれは、息子の寝室に置いてある。
 彼を寝かしつけるのは、ずっと妻の役目だったが、ときおりぼくが寝かしつけてやることもあった。といっても、本をすこし読んでやるだけなのだが。
 そのときに、サンディーに役に立ってもらうのだ。
 息子は寝るときに枕を使わない。息子の寝室には枕が置いてない。息子と並んで横たわり、本を読んでやろうとすると、ぼくのほうは頭に血がのぼって具合が悪い。
 そこで、サンディーを枕がわりにちょいと使わせてもらうのだ。
 ちょうど具合がいい。
 サンディーはこぎれいな現代的なぬいぐるみのクマで、プーさんとは似ても似つかない。
 画面では、蜂蜜を食べすぎておなかが入口につかえ、うさぎの家から出られなくなったプーさんが、大騒ぎを演じている。

 おなかがつかえて動けなくなってしまったプーさんを、クリストファーがたすけだそうとするのだが、どうしても抜けない。あわれなプーさんは、つかえたおなかがやせほそるまで、そのままがまんしていなければならないことになった。
 うさぎは、入口をふさいだプーさんのおおきなお尻が目ざわりで、気になってしようがない。額縁をはめて花瓶をかざったり、ろうそくを立てたりと、工夫をこらすのだが、それが見ている者にはおかしい。クマのプーさんに出てくる人形たちは、みんな、どこかしらおかしなところがあるようだ。
 ぼくの息子はサンディーというクマのぬいぐるみをもらったけれど、ぼく自身も幼い頃、クマのぬいぐるみを持っていたことを覚えている。サンディーと同じく灰色のクマだったが、サンディーのようにこぎれいなクマではなく、いまから思えばテディベアというものだったように思う。
 かなり大きくなってからも、そのぬいぐるみを持っていた。まさかそれで遊んだわけではないが、おもちゃをしまってある押入をあけると、いつもそのテディベアが目についた記憶がある。あのぬいぐるみ、どうしたんだろうか。まさか、いまだにしまってあるということもないだろう。一度、おふくろに聞いてみることにしよう。
 なぜか男の子の人形というと、世間では「クマ」と相場が決まっているようだ。じゃあ、女の子はどうなんだろう。
 おもちゃ売り場などに行くと、じつにたくさんのぬいぐるみが山と積まれていて、目がチカチカするほどだ。でもやはり、ヒナ人形というものが定番なのだろう。うちには女の子はいないが。
 テレビでは、みんなが力を合わせて、プーさんをうさぎの穴からひっこぬこうとしている。

0 件のコメント:

コメントを投稿