2009年11月18日水曜日

Even If You Are My Enemy

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----- MIZUKI Yuu Sound Sketch #44 -----

  「Even If You Are My Enemy」 水城雄


 彼女が目をさまして真っ先に思いだしたのは、昨夜のお父さんとの会話だ。
 お父さんは彼女の衣服のことをひどく気にする。昨日も、
「アイーシャ、外に出るときはきちんとチャドルを着けなさい」
 といわれた。これで百回めだ。いや、千回めかもしれない。彼女はただ、学校を休んでいる同級生のハッダードに、昨日出た宿題のことを伝えに行っただけなのだ。そしてハッダードはたった三軒向こうに住んでいるだけなのだ。
 それなのに、チャドルを着けろと口うるさい。
 家のなかでも肌をあらわにしていると嫌な顔をする。おまえはサンドニの売女《ばいた》かとののしられる。サンドニは行ったことがないけれど、パリのけがらわしい通りの名前らしい。何度かパリに行ったことがあるお父さんから聞かされた。
 パリにはムスリムが多いらしい。
「わたしも大人になったら行ってみたい」
 とアイーシャがいったら、おまえは家のことをしっかり身につけて、学校を出たら床屋のハッサンと結婚するのだ、といわれた。それはもう生まれたときから決まっていることなんだそうだ。そんなこと、まっぴらだ。わたしは学校を卒業したら、パリの美術学校に行って、絵の勉強をするんだ。なにも身にまとっていない美しいアラブの女の肖像を描くんだ。
 でも、とても許されないことだろう。パリに行くことも、アラブの女性の裸身を描くことも。
「ハッダードがなんで学校を休まねばならなかったか、よく考えなさい」
 お父さんがいう。もちろん、そんなことはよくわかっている。二、三日前、ハッダードがたまたま軍の兵士採用事務所の前を通りかかったとき、爆弾テロが起きて、ハッダードはそれで腕から肩にかけて二十針も縫う大怪我を負ってしまったのだ。腕がなくならなかっただけ幸運だとみんなからいわれた。
「世界は戦争の渦中なんだ。おまえひとりが自分のことだけ考えていればいいはずはないだろう」
 そのとおりだと思う。でも、なんでこんな時代に生まれてしまったんだろう。
 彼女は悲しくなって、ベッドのわきにそろえておいてあるサンダルを見つめた。
 赤いサンダル。今年、進級するとき、学校の成績がよくてほめられたとき、お母さんが、「おまえの好きなものをお買い、アイーシャ」といって買ってくれた。一番のお気にいりのサンダル。毎日それをはいて学校に行く。友だちからも「かわいいね」とうらやましがられる。
 サンダルを見るとすこし気分がよくなる。
 わたしの大切なサンダル。

「今日、われわれは並ぶもののない軍事力と偉大な経済的、政治的影響力を持つ地位を享受している。われわれは国際社会と強調するが、必要なら単独行動も辞さない」
 トマホークは固体ロケットブースターで射出され、ターボファンエンジンで巡航す
る。
 電波高度計による高度情報を、事前に入力されたレーダー地図と照合しつつ、計画された飛行経路に沿って目標へと誘導される。
 目標到達誤差は八〇メートルとされるが、搭載弾頭の破壊能力からすればこれは充分な数字である。

 彼女は朝の準備をすませて、学校に向かう。もちろん、お気に入りの赤いサンダルをはいて。
 家を出るとき、お父さんがいつものようにいう。
「アイーシャ、きちんとチャドルは着けただろうね」
 もちろん着けている。
 空はいつものように晴れわたり、一点の曇りもない。
 ハッダードは今日は学校に出てこれるだろうか、と考えながら、彼女は歩きはじめる。

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