2009年10月12日月曜日

砂時計

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----- Jazz Story #16 -----

  「砂時計」 水城雄


 砂が落ちつづけている。
 砂時計だ。
 砂時計なんて、何年ぶりに見る?
 大ぶりの砂時計だ。
 私は目をあけ、それを見つめた。そして、それまで目を閉じていたことに気づいた。
 眠っていたのか?
 いや、ちがう。
 では起きていたのか? それもちがう。
 では、なんだ? 私は眠ってもいず、起きてもいなかった。まるで存在していなかったみたいだ。でも、いま、私は、ここにこうやっている。こうやって砂時計を見つめている。砂がガラスの容器のなかを、さらさらと、上から下へと流れ落ちているのを見ている。
 その砂時計にはどこか違和感があった。非現実的な感じがした。
 どこが?
 彫刻をほどこされた古めかしい木の枠に、白い砂が入ったガラス容器がはめこまれている。いささか古風ではあるが、ごくありふれた砂時計だ。しかし、なぜか違和感がある。
 見つめているうちに、その違和感はしだいに強まっていった。
 そもそも、この砂時計はいつからここに置かれていたのか。
 ここに置いていったのはだれなのか。
 私の記憶にはなかった。
 そして、違和感の原因を、私はついに見つけた。
 砂時計はいつまでたっても終わらないのだ。上から下へ流れつづけて、終わりがない。上の砂は、下へと流れ落ちつづけているのに、まったく減らないのだ。
 砂はえんえんと落ちつづけ、時はえんえんと進みつづけている。

 どのくらいそうやっていただろうか。
 砂は相変わらず落ちつづけていた。
 永久に落ちつづける砂時計は、もはや時計とはいえない。砂時計は、その機能を停止してはじめて、機能を発揮する道具なのだ。砂の落ちることが終わってはじめて、砂時計は時をつげる。
 しかし、永久に落ちつづける砂時計は、時をつげることはない。
 機能しない砂時計。
 起きているのか、眠っているのかわからない、私。
 そもそも、私は何者なのか。
 たしかに名前はある。忘れたわけではない。しかし、その名前は、私そのものではない。名前は名前だ。私というものを表現しているかもしれない記号、それが名前だ。砂時計の砂のようなものだ。
 砂が流れ落ちているのを見て、私はそれを砂時計だと思った。私に名前がついていれば、人は私を人だと考えるのだろうか。
 私の機能とはなんなのか。
 永久に落ちつづける砂時計のように、ただ名前がついている物体にすぎないのではないか。ただ名前がついているだけで、機能を発揮しない物体にすぎないのではないか、私は。
 私はおそらく、名前を失ってはじめて、機能を発揮するものなのだろう。砂がとまってはじめて、砂時計が機能を発揮するように。
 いずれ私は名前を失うのだろう。あるいはみずから捨てるのか。私は私の名前をみずから停止し、そこから出ることができるのだろうか。
 古めかしい砂時計の砂は、まだ流れ落ちつづけている。

38 件のコメント:

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  2. ラジオアプリの方で語らせていただきます

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  3. ツイキャスにてお借りしました!ありがとうございました!

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  4. お借りします

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  5. ラジオアプリで使用します
    お借りしますね

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  6. 初めまして、香かなこと申します。
    朗読のレッスンに使用させて頂きたいと思います。
    宜しくお願い致します。

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  7. 配信アプリにて使用させていただきます
    世界観にうっとりしました

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  8. ツイキャスの朗読でお借り致します。

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  9. 初めまして。spoonにて朗読させて頂きました。
    素敵な世界観に魅了されたものの、読んでみると何か違う感が否めず、、

    https://u8kv3.app.goo.gl/aEjmT

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  10. YouTubeで使用したいと思います。
    お借り致します!

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  11. ラジオアプリで使用させていただきました。

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  12. お借りします。YouTubeにて読ませて頂く、予定です。

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  13. ツイキャスにて使わせていただきます。

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  14. YouTube用にお借りします!

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  15. いつもお世話になっております。
    朗読作品として、『砂時計』をお借りしました。

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  16. コメント失礼いたします。
    お借りいたします。

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  17. いつもすいません!お借りします!

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  18. シナリオお借りします。YouTubeにて朗読させていただきます。

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  19. お借りしますいつも、ありがとうございます

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  21. 初めまして。17ライブやyoutubeで活動するアラジン校長と申します。
    不思議で魅惑的な世界観の今作を動画での朗読でお借り致します。
    他の作品も魅力的なものばかりなので、また、お借り出来たらと考えております。
    どうぞよろしくお願いいたします。

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  22. YouTubeにて朗読でお借りしました。
    ありがとうございます。

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  23. spoonにて朗読させていただきました。
    ありがとうございます。

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  24. YouTubeで使用させていただきます

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