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----- Jazz Story #16 -----
「砂時計」 水城雄
砂が落ちつづけている。
砂時計だ。
砂時計なんて、何年ぶりに見る?
大ぶりの砂時計だ。
私は目をあけ、それを見つめた。そして、それまで目を閉じていたことに気づいた。
眠っていたのか?
いや、ちがう。
では起きていたのか? それもちがう。
では、なんだ? 私は眠ってもいず、起きてもいなかった。まるで存在していなかったみたいだ。でも、いま、私は、ここにこうやっている。こうやって砂時計を見つめている。砂がガラスの容器のなかを、さらさらと、上から下へと流れ落ちているのを見ている。
その砂時計にはどこか違和感があった。非現実的な感じがした。
どこが?
彫刻をほどこされた古めかしい木の枠に、白い砂が入ったガラス容器がはめこまれている。いささか古風ではあるが、ごくありふれた砂時計だ。しかし、なぜか違和感がある。
見つめているうちに、その違和感はしだいに強まっていった。
そもそも、この砂時計はいつからここに置かれていたのか。
ここに置いていったのはだれなのか。
私の記憶にはなかった。
そして、違和感の原因を、私はついに見つけた。
砂時計はいつまでたっても終わらないのだ。上から下へ流れつづけて、終わりがない。上の砂は、下へと流れ落ちつづけているのに、まったく減らないのだ。
砂はえんえんと落ちつづけ、時はえんえんと進みつづけている。
どのくらいそうやっていただろうか。
砂は相変わらず落ちつづけていた。
永久に落ちつづける砂時計は、もはや時計とはいえない。砂時計は、その機能を停止してはじめて、機能を発揮する道具なのだ。砂の落ちることが終わってはじめて、砂時計は時をつげる。
しかし、永久に落ちつづける砂時計は、時をつげることはない。
機能しない砂時計。
起きているのか、眠っているのかわからない、私。
そもそも、私は何者なのか。
たしかに名前はある。忘れたわけではない。しかし、その名前は、私そのものではない。名前は名前だ。私というものを表現しているかもしれない記号、それが名前だ。砂時計の砂のようなものだ。
砂が流れ落ちているのを見て、私はそれを砂時計だと思った。私に名前がついていれば、人は私を人だと考えるのだろうか。
私の機能とはなんなのか。
永久に落ちつづける砂時計のように、ただ名前がついている物体にすぎないのではないか。ただ名前がついているだけで、機能を発揮しない物体にすぎないのではないか、私は。
私はおそらく、名前を失ってはじめて、機能を発揮するものなのだろう。砂がとまってはじめて、砂時計が機能を発揮するように。
いずれ私は名前を失うのだろう。あるいはみずから捨てるのか。私は私の名前をみずから停止し、そこから出ることができるのだろうか。
古めかしい砂時計の砂は、まだ流れ落ちつづけている。
2009年10月12日月曜日
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返信削除お借りします。
返信削除ラジオアプリの方で語らせていただきます
返信削除ツイキャスにてお借りしました!ありがとうございました!
返信削除お借りします
返信削除ラジオアプリで使用します
返信削除お借りしますね
初めまして、香かなこと申します。
返信削除朗読のレッスンに使用させて頂きたいと思います。
宜しくお願い致します。
配信アプリにて使用させていただきます
返信削除世界観にうっとりしました
ツイキャスの朗読でお借り致します。
返信削除初めまして。spoonにて朗読させて頂きました。
返信削除素敵な世界観に魅了されたものの、読んでみると何か違う感が否めず、、
https://u8kv3.app.goo.gl/aEjmT
お借りします
返信削除お借りします
返信削除お借ります
返信削除spoonでお借りします
返信削除YouTubeで使用したいと思います。
返信削除お借り致します!
ラジオアプリで使用させていただきました。
返信削除お借りします。YouTubeにて読ませて頂く、予定です。
返信削除お借りします
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