2009年10月19日月曜日

古い友人への手紙

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----- Urban Cruising #12 -----

  「古い友人への手紙」 水城雄


 そういえば、あいつはどうしているんだろう。高校のときは、ふたりでよく、裏山にのぼって、とりとめもない話をしていたもんだ。
 秋になると、なぜか古い友人のことを思いだすことが多い。

 拝啓。
 ひと雨ごとに秋の深まりを感じさせる今日ころごろですが、きみはいま、どうしていますか。
 きみがいま、どこにどうしているのか、ぼくは知りません。こちらにいるぼくの友人に聞いても、きみがいまどこでどうしているのか、はっきりした答えは帰ってきません。
 高校のときは、ぼくもそうでしたが、きみもあまり普通の生徒とはいえないようなところがありましたね。倫理社会科の先生にふたりがかりで立てついて困らせてみたり、みんなが机にかじりついて試験勉強をしているというのに、教室のうしろでコマ回しをしていたり、できもしない試験問題をさっさと提出して、時間なかばで教室を出ていったり、気にいった女の子の背中にカエルをいれてみたり。
 文化祭のオープニングでは、ふたりで示し合わせて、裏山の上からみんながフォークダンスをしているのをながめていたっけ。
 あのあと、ぼくは京都の大学に進み、きみは神戸の大学に進みました。そのあとのきみのことを、ぼくはちっとも聞きません。京都と神戸なんてその気になれば近いというのに、一度も会うことはありませんでしたね。噂によれば、きみは大学を中退したということですが、本当でしょうか。もし本当だとしたら、いまごろなにをしているのでしょうか。
 やはり、金子光晴の詩に出てくるオットセイのような態度で、社会に背を向けて暮らしているのでしょうか。
 秋になると、なぜだか、無性にきみに会いたくなることがあります。

 きみはいま、どんな仕事を持っているのですか?
 もう結婚しましたか? 子どもはいますか?
 ぼくは、きみの噂と同じように、大学を中退して、自分の好きな道を選びました。いろいろと大変なこともありますが、なんとかやっています。自分の好きなことを仕事に持つというのは、しあわせなことではありますが、なにもかもが満たされるというわけではありません。わかるでしょう? きみならぼくのいいたいことがわかると思います。
 ぼくもこの世界では、ようやく安定して仕事をもらえるようになり、いまでは締切に追われる毎日です。なんとか結婚もしました。子どもも、ひとりですが、います。
 きみはどうなんでしょう。
 あのきみなら、いったいどんな仕事につくことなんだろう。いつもひとりでいることを好み、ときには激しく感情をむきだしにし、ときにはみんなを愉快な気分にさせてくれたきみ。あのとき、ぼくたちのほとんどがそうだったように、きみも理工系の大学に進んだけれど、きみがいま技術系の仕事をしているとは、ぼくには信じられません。もっとも、そういうこともあるのが、世の中なのかもしれませんが。
 案外きみも、大きな企業の研究所かなにかに勤め、かわいい奥さんと子どもの二、三人も持って、平和な日々をすごしているのかもしれませんね。
 そうそう、あの子のことをおぼえていますか? ぼくときみとがふたりで争ったあの子のことを。
 じつをいえば、ぼくが結婚した相手は、あの子ではありません。そのことで、きみにはなんだかすまないような気になることがあります。もちろん、そんな必要はないのだろうけど。
 あれは三年のときだったろうか。受験勉強もいそがしくなるいまごろの季節でしたね。一年のときからずっとクラスメートだったあの子のことを、なぜだかぼくたちふたりは、急に好きになっちゃったんだ。おかしなことに、ほとんど同時に。
 結局、あの子はたまたま、ぼくのほうを選んだ。きみはそれからしばらく、ぼくと口をきいてくれなかった。
 ぼくは好きな女の子と付き合うことができて、幸せいっぱいでした。きみのことまで考える余裕はありませんでした。でも、ときおり、ふたりで歩いていてきみとすれちがったりすると、なにか心の奥底のほうが、ちくちくしました。信じないかもしれないけど、ほんとうのことです。
 いまごろの季節になると、きまってこのことを思いだします、ぼくは。
 文化祭の前夜祭をエスケープしてきみとのぼった学校の裏山に、ぼくはあの子とのぼったことがあります。まだ紅葉ははじまっていなかったけれど、とても寒い夕刻で、ぼくたちは肩を寄せあってすわっていました。
 あの子もいまでは三人の母親です。
 いや、直接会ったわけではなくて、ぼくの友だちがそれを教えてくれたのです。でも彼も、きみのことは教えてくれなかった。
 きみはいま、どこでどうしているのでしょうか。

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