2009年10月23日金曜日

A Red Flower

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----- MIZUKI Yuu Sound Sketch #47 -----

  「A Red Flower」 水城雄


 あなたはいま、一輪の花を見ています。
 あなたはその花の名前を知りません。わかるのは、その花がやや紫がかった赤い色で、五枚の薄い花弁を持っているということです。
 花はややしおれ、茎も少し弓なりにうなだれています。
 茎は水のはいったコップに挿してありますが、花がしおれているのは水が古いせいではなさそうです。なぜなら水は替えられたばかりだからです。
 花がしおれているのは、花が咲いてからもうかなりの日数がたっているからです。
 あなたはその花が咲いたところを見ていません。だれかが、咲いた花を切ってコップに挿し、ここに置いたのです。そのときからあなたはこの花を見ています。
 まだ蕾から開いたばかりのみずみずしい花を、あなたは見ました。それ以来、毎日水を替え、できるだけ長く花がしおれないようにしてきました。
 でも、いま、花はしおれかかっています。
 もうすぐ花は完全にしおれ、花びらを落として枯れてしまうでしょう。それが花であることの定めだからです。
 花はそのことをすこしも悲しがってはいません。悲しがるどころか、こうやってあなたに会えたことを喜んですらいます。あなたに会え、あなたに見つめられ、あなたに水を替えてもらった。そして、枯れてしまうことをあなたに残念がってもらえている。
 花が枯れたら、あなたはこの花のことを忘れてしまうのでしょうか。
 いえ、あなたはたしか、この花をスケッチしていましたね。あなたの手帳のすみに、ペンでこの花をちいさくスケッチしていました。それだけではなく、色鉛筆で赤い色を塗りました。あなたはきっと、手帳のそのページをひらくたびに、この花のことを思いだすことでしょうね。本当はスケッチなどしなくても、あなたはこの花のことをおぼえていてくれるのかもしれません。でも、花はあなたにスケッチしてもらったことで、いくらかのやすらぎを覚えます。あなたが思いだせるということは、枯れてしまってもまだあなたのなかで命を持っていると想像できるからです。
 わたしは、あなたの知らないところで生まれ、咲きました。でも、こうやってあなたとおなじ時間をすごし、あなたに見守られながら枯れていきます。
 わたしの存在はやがて消えます。でも、どうぞわたしのことはおぼえていてください。あなたもまた、わたしとおなじように、いずれは消えていく運命です。でも、あなたのことをだれかがおぼえているように、あなたもわたしのことをおぼえていてください。
 あなたがおぼえているかぎり、花は花であり、わたしはわたしなのです。

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