2009年12月20日日曜日

Him

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----- MIZUKI Yuu Sound Sketch #22 -----

  「Him」 水城雄


 正直にいえば、彼の命はあと数週間、長くて数か月であろうと私は確信していた。
 とても一年、二年、もつものではない。巨大な軍事的警察国家を相手に逃げ切れるものではない。これから先、彼はどこへ逃げようというのか。どこに向かおうというのか。
 私はそれを確かめるために、みずからの生命の危険を犯して彼と行動をともにしていた。私の確信に従えば、つまり彼の死を見届けるために。
 しかし彼の言動には不安やためらいを感じさせるものはなにもなかった。言動は常に確信的であり、決断には一瞬のためらいもなく、ときには希望に満ちてさえいるように見えた。
 彼はなぜそれほどまでに自信にあふれているのか。大きく開けたライオンのまさにアギトの中に立っているような状況だというのに。
 神を信じているからか。
 違う。彼が信じているのは、彼自身だけだ。それは間違いない。
 今朝、私は、彼がだれよりも早く目覚め、洞窟の外に出ていくのに気づいた。私も急いで身支度し、彼の後を追った。
 砂漠の高原にいままさに日が昇ろうとしている。彼はくぼんだ目をさらにくぼませ、日の出をじっと見つめている。風はないでいる。完全に乾ききった大気も、この時間だけはかすかに湿りを帯び、官能的な芳香を放つ。
 私が近づいて行くと、洞窟の脇に立っていた歩哨が行く手をさえぎった。まだ十四、五の少年だ。
 彼がこちらを振り返り、歩哨の少年に私の接近を許させた。
「なにを見ているのですか」
 決まりきった質問に、私のあらわな肌をとがめることもなく、彼はこたえた。
「おまえはなにが見える?」
「砂漠の日の出」
「そうだ。そして今日も日の出を見ている私がここにいる。おまえは、明日は私がこの日の出を見られないと思っているな」
「そんなことは……」
「私には嘘はつけない」
 言葉がナイフのように私の身体をつらぬいてくる。彼と話しているといつもそのように感じる。
 私は身を震わせる。ことによると私は彼に心を奪われてしまったのかもしれない。
「今日がその日だ」
 彼の言葉の意味はただひとつ。
「では、いよいよ……?」
「世界中で仲間が立つ。よく見ておけ。そして書け。書いて世界に知らせろ。それがおまえの仕事なのだろう? 日の出を見られないのはだれなのか、嘘いつわりなく書け」
 また多くの血が流される、と私は思う。流血の連鎖だ。私の家族や友人も犠牲になるかもしれない。
 だがそれはこの男のせいなのだろうか。
 彼は私に見せるように腕を太陽に向かって真っすぐに伸ばすと、指先ですばやく光線を横に切った。それは私に見せるというより、歩哨の少年に見せたのかもしれなかった。

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