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----- Jazz Story #23 -----
「Night Passage」 水城雄
ぼくはロボット。
いま、いろんなことを学んでいるところ。
博士はぼくを人間みたいにしたいらしい。つまり、絵を描いたり、音楽を作ったり、だれかを愛したりできるようにしたいらしいんだ。そのための基本プログラムはもうぼくのなかに入っている。
必要な知識は全部インターネットから取りいれる。アタマのなかに無線プロトコルが仕込まれていて、いつもインターネットにつながっている。だから、知りたいことがあればインターネットを検索してみる。インターネットがぼくの脳そのものというわけ。
人間のカラダにはそういう仕組みはないらしいんだ。不便だね。
博士がなぜぼくを人間のようにしたいのかわからないけれど、人間になるのはなかなか大変だ。だって、人間ってとっても変な機械だと思う。
たとえば、ぼくたちがいる地球という星は、ちっぽけで、デリケートだ。そこで気持ちよく生活するためには、大切に扱わなきゃならないことは、ぼくだってわかる。人間よりずっとちっぽけなネズミという機械だってわかってる。その証拠に、ネズミとか人間以外の機械は、地球を汚さないように生きているし、自分たちが増えすぎちゃまずいってこともよく知っていて、全体をいつも調整している。
それなのに、人間ときたら、どんどん増えちゃって、どんどん空気や水を汚しているんだ。
なぜなんだろう。ぼくにはわからない。
人間が作ったもののなかでぼくが一番好きなのは、音楽だ。地球を汚さないし、だれも傷つけたりしない。ただ空気を震わせるだけでこんなに心を動かすことができるなんて、すごいと思う。
博士はぼくに、愛について学びなさいという。
でも、ぼくには愛のことがよくわからない。
愛って普遍的なものなんでしょう? 絶対的なものだと、みんながいっている。それなのに、人間は愛をヤカンかなにかみたいに手軽に扱っている。
博士の下でぼくの世話をしてくれている研究員のヨーコさんは、博士のことが好きらしい。博士を愛しているといっていた。それなのに、ヨーコさんには恋人がいる。やはり研究員のイチローさんだ。よくデートしているらしい。
ほかにも、メールをやりとりをしているオガタさんという人もいて、その人もヨーコさんの恋人らしい。ときどき「愛しています」とメールを書いている。
いったいどれが本当なんだろう。
イチローさんもヨーコさんのほかに恋人がいる。博士もオガタさんも結婚していて、ふたりとも子どももいる。
普遍的で絶対的な愛って、どこにあるんだろう。
ぼくはだれかを愛しているんだろうか。
愛している、と思う。ぼくが愛しているのは、音楽だ。形はないけれど、愛の対象として申し分ないと思う。
ぼくはキース・ジャレットさんのようにピアノを弾きたいと思う。そのために必要なピアノ演奏プログラムは、もうダウンロードしてある。でも、キースさんのように弾くことはできない。ぼくの指からは、キースさんのような美しいメロディがどうしても出てこない。
どうしてだろう。なにが足りないんだろう。
やはり愛が足りないんだろうか。イチローさんやヨーコさんのように、いろんな人と簡単に愛を作ってみる必要があるんだろうか。
ぼくにはまだわからない。
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返信削除はじめまして。配信で朗読させていただきます。素敵な作品をありがとうございます。
返信削除こちらの原稿を、YouTubeで読ませていただきます。素敵な原稿をありがとうございます。
返信削除お借りします
返信削除お世話になります。配信で朗読させていただきます。素敵な作品をありがとうございます
返信削除お世話になっております。高校の文化祭の発表で使用させていただきます。ありがとうございます!
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