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----- Jazz Story #29 -----
「The Green Hours」 水城雄
拝啓。
ひと雨ごとに秋深まる今日このごろですが、きみはどうしていますか。
ぼくはなんとか元気でやっています。
この季節になると、むかし痛めた膝がシクシクと痛むことがあるのだけれど、今年は割合調子がよくて、たすかってます。きっと、定期検診で血糖値を注意され、去年からスイミングを始めたことがよかったのかもしれません。
毎朝、がんばって早起きして、早朝のプールにかよっているのです。だいたい朝の八時三十分くらいがすいているようです。休みながらゆっくりと、何度もプールを行ったりきたりしています。
昔のぐうたらなぼくしか知らないきみには、きっと想像もできないことでしょう。
がらんとひと気のないプールで泳いでいると、きみのことを思いだします。きみは海が好きでしたね。休みになると、いつもぼくを海に誘いましたね。
ぼくも海は大好きだったから、誘われのはとてもうれしかった。
取り立ての二輪免許に、買ったばかりの中古のバイク。それにまたがって、ふたりで海に出かけました。
ぼくの身体に両手をまわし、しっかりとしがみついてくるきみのやわらかな胸の感触を、ぼくはいまもはっきりと思いだすことができます。
海に着くと、ぼくは竿を組みたて、しかけをつける。
針の先には、途中で買ってきた餌のゴカイ。キス釣りのしかけで、実際には釣れたことなんかないけれど、砂浜から海に向かってしかけを遠くまで投げいれる。
その横で、きみは背中にしょってきた折り畳み式の椅子を組み立て、砂浜に広げる。
しかけを投げこむと、ぼくはきみと砂浜に並んで座った。
海からの潮風が気持ちよかった。
ときには折り畳み椅子ではなく、シートを敷いて寝転がることもあった。
きみはいつも手をのばしてきて、ぼくと手をつなぎたがった。ぼくはきみの手を握りかえし、そのまま眠ってしまうこともあった。
秋の朝、膝が痛まないことに感謝しながら、ぼくはプールでそんなことを思いだしています。
きみもときには、ぼくのことを思いだすことがありますか? きみがぼくを思いだすとしたら、どんなときなのでしょうか。
きみはもう結婚しましたか? 子どもはいますか?
きみはいま、どこでどうしているのでしょうか。
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ツイキャスで朗読させて頂きました、
返信削除ありがとうございました!