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----- Jazz Story #28 -----
「Love Letters」 水城雄
この上ない秋晴れの日、私はパソコンに向かって、苦情処理のメールを書いている。
お客さまからの苦情。深刻な訴え。
苦情処理係として、ここは誠心誠意、対応しなければならない。対応を間違えると、会社に甚大な損害をあたえてしまうことになる。お客さまの苦情に対して誠意ある態度を見せ、お怒りを静めてさしあげるのが、私の仕事だ。その仕事に対してお給料をもらっているわけだから。
だから、どんな苦情が来ようと、冷静に、適切に対応しなければならない。
なんてことだろう。
ときどき泣きたくなる。愚痴をこぼしたくなる。椅子を蹴って立ちあがり、パソコンの画面に上司の灰皿を叩きつけたくなる。ああそう、私の近くで無神経に煙草をふかしている上司の存在だって、私には苦痛なのだ。
でも私はいつもニコニコ。
「おはようございます」
「お疲れさまです」
「あ、コピーですか。わかりました、すぐにやっておきます」
わざわざメールをいただきありがとうございます。お客さまのご要望の件は、早急に社内で検討いたしまして、ご納得いただけるような対応を……
秋の空はどこまでも澄みきり、晴れわたっている。
急に冷えこんできた。私はコートを持ってこなかったことを後悔した。もうコートを着て歩いていてもおかしくはない季節なのだ。
例によって残業。苦情の電話。一時間近くもねばられてしまった。私がおかしたミスではないのに。でも、人のミスを処理するのが、私の仕事。
自社ビルの通用口を出ると、ビルの谷間を吹きぬける突風にスカートをあおられる。
もちろんすでに日は落ちている。とっぷりと暮れている。
なにか暖かいものがほしい。
でも、部屋に帰ってもひとり。空気は冷えきっているだろう。エアコンが暖まるまでの時間が哀しい。
どこかに寄ってから帰ろう。
どこに寄ろう? マック? スタバ? ミスド?
私はポケットから携帯電話を取りだした。だれかにかけてみようか。
思い浮かんだ顔は、今年の春に結婚したばかりの同級生。半月ばかり前に、妊娠したのよとうれしそうな声でかかってきた。
私は電話をポケットにもどす。
そのとき、立っていたサンドイッチマンと目が合ってしまった。もうサンタクロースの衣装を着こみ、新しいキャバレーの宣伝看板をさげ、四角い格好で立っている。
「気をつけて帰んな、お嬢ちゃん」
サンドイッチマンが白い息を吐きながら、いった。
2009年11月22日日曜日
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