(C)2009 by MIZUKI Yuu All rights reserved
Authorized by the author
----- Jazz Story #27 -----
「じぃは今日も山に行く」 水城雄
じぃは今日も山に行く。
痛めた膝をかばいながら。杖にすがって。
晴れ渡った空。木々はすっかり葉を落としている。空には高く、オオタカが舞っている。じぃはオオタカの巣がある場所を知っている。なぜなら、オオタカの巣の近くに、毎年大きなマイタケが出る木株があるからだ。
オオタカの鳴き声が空から降りてくる。それはときに、じぃの嫌いな音楽のように聞こえることがある。
じぃは空を見上げ、顔をしかめる。オオタカに鳴くのをやめよといっているみたいに。
じぃのひとり息子は音楽をなりわいとしているらしい。じぃはそれが嫌なのだ。いや、そもそも、音楽自体が気にいらない。わけがわからない。そんなものをメシの種にする人種など、とうてい信用することができない。
じぃは今日も山に入る。マイタケを狩り、山芋を掘る。
じぃの一日の稼ぎは、息子の嫁が家でやっているデータ入力の仕事よりも安いほどだ。
しかし、今日も膝をかばいながら、じぃは通いなれた山道を分け入っていく。
オオタカの巣の近くのマイタケは、今年はもう採ってしまった。
今年も大きなマイタケが採れた。じぃはその場所をだれにも教えていない。
音楽をやっている息子にも教えない。
だから、じぃはマイタケの株を通りすぎて、もっと山の上まで登っていく。
汗がポタ、ポタ、と、ミズナラの枯葉の上に落ちる。
またオオタカの鳴き声が聞こえた。
じぃは顔をしかめ、家にいる息子の嫁のことを考えた。
もちろん、音楽なんぞで食えるわけがない。じぃの息子なのだ。才能がないことはわかっている。しかし、どんな夢を見ていることやら、息子はふわふわと生きている。嫁はカネにならない内職に精を出している。大きな腹を抱えて。
前から目をつけていた山芋のツルのところまでやってきた。
じぃは手ぬぐいで汗を拭くと、小鍬を手にして土を掘りはじめた。
ザク、ザク、ザク。
山芋は大きいだろうか。いくらで売れるだろうか。そしてじぃは、生まれてくる赤ん坊のことを思う。
頭上高く、オオタカの泣き声が聞こえる。
2009年11月1日日曜日
登録:
コメントの投稿 (Atom)
ラジオアプリで朗読に使用させてください。このお話、好きです。
返信削除読みながら気持ち良くなりました。アプリで使用させていただきます。
返信削除SpoonのCASTで使わせていただきます。
返信削除使用させて頂きます。
返信削除YouTubeにて使用させていただきます。
返信削除ツイキャスにて使わせていただきます
返信削除配信アプリでお借りしました。ありがとうございました。
返信削除音声配信アプリにて使用させて頂きます。
返信削除よろしくお願いします。
収録配信アプリにて使用させていただきます。ありがとうございました。
返信削除失礼いたします。
返信削除YouTubeにて朗読させていただきます。