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----- MIZUKI Yuu Sound Sketch #22 -----
「Morning Plain」 水城雄
その朝、ぼくはある予感をおぼえながら、急いで窓をあけた。
思ったとおりだ。ここ数日降り積もった雪がまばゆい陽光を反射して、きらきら光っている。昨夜、学習塾の帰りにオリオン座がくっきりと見えた。このまま明日の朝まで曇らなければ……
大人になってから知ることになる「放射冷却」という現象のせいだが、その言葉を知らなかった小学生のぼくも、晴れた夜の翌朝は冷えこみ雪の表面が凍りついてかちかちになることを知っていた。
母が用意してくれた朝食もそこそこに、長靴をはき、ランドセルをせおって外に飛びだす。
玄関前の雪をはねのけながら、車がつけたわだちをたどって大通りを横ぎる。
そこは一面の雪原。
ぼくの家から小学校まで約一キロ。なにもさえぎるもののない、まっ平らな雪原。
ところどころ、こんもりと白い雪を乗せた農作業小屋が、雪原に突っ立っている。学校の帰りには、あの屋根の上から飛びおりて遊ぼう。そのころには雪は柔らかくなって体重をそっと受けとめてくれるだろう。
雪原に長靴を踏みだすと、わずかに表面が沈んでザクリという音が生まれる。
ザクリ、ザクリ。
やがてぼくは、なにもかも忘れて駆け出す。ただひたすらに、まっすぐに、雪原をどこまでも駆けていく。
そう、あれはもう20年も前の冬のことだ。
いまはもう、あの学校も雪原も、田んぼも、母も、小学生だった私もいない。
2009年12月23日水曜日
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