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----- Jazz Story #13 -----
「セカンドステージ」 水城雄
それはセカンドステージのことだった。
いつものように、ひとり、ピアノを弾いていると、女がおれのすぐ前に座った。ピアノのまわりにもカウンターが切ってあって、そこでも酒が飲めるようになっている。
女がまっすぐにおれを見つめた。
高校生のガキみたいに、どぎまぎしてしまいそうになる。
そのとき弾いていた「ソフィスティケーティッド・レディ」に集中する。ダイアトニックなコード進行を多用した、けっこうややこしい曲なのだ。
と、女が言った。
「なにがあってもそのまま弾きつづけてね」
なに? おれはピアノを弾きつづけながら、聞き返した。リズムをくずすことなく客と会話するなんてのは、いつもやっていることだ。どうってことない。
「ピアノの下であたしの銃が、あなたの股間をねらっているわ」
なんだ? いったいなにを話しているんだ?
「うそじゃない。ベレッタM一九二六。知り合いから買ったの。あなたを殺すために」
「おれを殺す? なんのために」
頭がおかしいのか、この女。
「演奏をつづけてね。演奏が止まったら撃つわ。リズムを乱しても死ぬわよ」
「なぜこんなことをする」
「恨みをはらすため。あたしのリクエストを全部まちがえずに弾けたら、命だけはたすけてあげる」
そういって、女はピアノの下からちらりと手をあげてみせた。
たしかにその手には、小ぶりの銃が握られているのだった。
おれは女のリクエストで「ラブ・フォー・セール」を弾いていた。
リクエストは全部弾くこと。もし弾けなかったら、その場で撃ち殺される。
コード進行やリズムを間違えても、殺される。おれのこのステージの持ち時間は、あと十五分ばかり。
そのあいだ、無事に演奏を終えられれば、命は助けてもらえるという。
女が一方的に押しつけてきたルールだ。銃の威力を使って。
おれがなにをしたっていう?
「やっと見つけたの、この店。さんざん探したわ」
「悪いが、きみのことを覚えていないようだ」
「あなたらしいわ。そうやって人を死ぬほど傷つけて平気なのよ」
「おれがきみになにをしたのか、教えてくれないか」
「ごめんだわ。教えない。次のリクエストよ。ニアネス・オブ・ユー」
幸い、知っていた。
ジャズのスタンダードナンバーを知っているというのは、メロディとコード進行を覚えていることを意味する。
おれがニアネス・オブ・ユーを弾きはじめると、女はいった。
「命拾いしたわね。でも、次の曲はどうかしら」
いったいこれはどういうゲームなんだ。
「せめてきみの名前を教えてくれないか」
おれは過去、関係のあった女の顔を思い出しながら、たずねた。しかし、記憶のなかに目の前の女の顔はない。けっこうな美人だというのに。
「教えない。あなたにはすでに一度、教えたから」
混乱したまま、ニアネス・オブ・ユーを弾きつづけた。
「次のリクエストは、オール・オブ・ユーよ」
それを聞いて、おれは思い出した。この女のことを。
オール・オブ・ミーという曲がある。おれはその曲と、似た題名のオール・
オブ・ユーを、混乱して覚えることができないのだ。そんな話をしたことがある。
どちらかがCのキーで、どちらかがEフラットのキーだ。
「弾くのをやめる?」
せかされて、おれは決断した。そしてCのキーで弾きはじめた。
「それはオール・オブ・ミーだわ」
女がいった。うれしそうに。
2009年12月22日火曜日
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とても素敵なお話ですね。
返信削除使わせていただきます。
ライブで朗読させていただきます。
返信削除いつもお世話になっております。
返信削除日数が経ってしまい申し訳ございません。
改めまして、この度、こちらの作品を朗読させていただきました。完全に洋画の世界観がツボで、お聴きくださった方々にも好評を博しております。
https://hear.jp/sounds/2rPwmw
今回も、素敵な作品をありがとうございました!
お借りします
返信削除お借りします
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