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----- Urban Cruising #17 -----
天井は温室みたいにガラス張りになっている。
胸をふくらませ、身体をあおむけにして水面に浮かんでいると、ガラスを通して秋の太陽がまぶしい。
泳いでいる者は、ぼくのほかにだれもいない。
歩いて行けるほどの近くに、プールができた。
日ごろ運動不足を自覚しているぼくは、まっ先にスイミング・クラブの会員になることにした。
なに、田舎のスイミング・クラブのことだ、都会のクラブのように、目の玉が飛びでるほど会費をふんだくられるようなこともなかった。
温水プールで、水温は常に三十度前後にたもたれている。プールサイドにはサウナルームがあり、自由に利用できるようになっている。シャワールームも完備している。
できた当初は、ものめずらしさと、夏だったこともあって、かなりの人が常時泳ぎにきていたものだ。会員にならなくとも、若干の入場料金を支払えば、一般客として泳ぐことができるのだ。日曜日ともなれば、家族連れが遊園地気分で押しかけてきた。
とても泳げるものではない。
が、秋も深まった今日このごろでは、めっきり利用者が少なくなってきた。
平日の昼間、とくに午前中など、ちょうどいまのように、泳いでいる人間がぼくひとり、というようなことも珍しくない。
たったひとりでプールを独占し、水面にゆったりと浮かんでいるのは、なんともいえない気分だ。
そんなぼくに、声をかけてくるものがあった。
水面にあおむけになったまま、顔だけプールサイドに向けると、水着をつけた若い女性の姿が目にはいった。
若い、と思ったが、よく見るとぼくと同年輩らしい。
ふっくりした顔だちだが、目尻のあたりに年齢があらわれている。
正確に名前を呼ばれ、ぼくはプールの中に立ちあがった。
向こうはこちらを知っている。こちらは向こうを知らない。
「どこかでお会いしましたっけ?」
ぼくはまぬけな質問をした。それよりほかに、いうべきことを思いつかない。
「同級生です、高校の」
同級生? 見おぼえ、ない。
「何組でした?」
「四組です」
四組といえば、女子ばかりのクラスだ。あの子とあの子なら知っているぞ。
ぼくは知っているかつての女生徒の名前をいってみた。
「そう、その子と同じクラス」
と彼女はこたえる。
「あたし、目だたなかったから」
そういって、彼女は頭に手をやると、スイミング・キャップをぬいだ。
ああ、そうか。
ぼくはわずかに記憶がよみがえるのを感じた。たしかにこの女性、高校の同じ学年にいたな。
しかし、あのころはもっと……
ぼくは正直にいった。
「すこし太ったね?」
ふふふ、と高校生の顔になって、彼女が笑った。
もともと水泳は得意だったが、ひさしぶりに泳いでみると、日ごろの運動不足をつくづく思い知らされた。
最初は、二十五メートルプールを往復しただけで、息が切れてものもいえないほどになったものだ。
毎日かよっているうちに、七十五メートル、百メートルと、すこしずつ距離をのばし、ゆっくりとではあるが八百メートルほど泳げるようになった。
ぼくがそうやって泳いでいるあいだ、彼女もほぼ同じペースでぼくの横を泳ぎつづけた。
八百メートルを泳ぎきり、彼女が泳ぎやめるのを待った。
「女性でそんなに泳ぐ人、はじめて見たよ」
ぼくがいうと、
「だってあたし、このスイミング・スクールの先生だもの」
「なあんだ、教えているのか」
それからぼくはたずねた。
「ここができる前は、どこかで教えていたの?」
「ええ」
彼女は別の町の名を教えてくれた。ここからはかなり遠い。
「そこに住んでいたから。もどってきたの」
「ご家族は?」
「いまは、ひとり」
ぼくはその意味を考えた。
まあいい。人には人の事情がある。
ぼくはプールからあがると、彼女に軽く会釈してから、シャワールームに向かった。
2009年12月7日月曜日
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返信削除https://youtu.be/avGB8r4hKms
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