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----- MIZUKI Yuu Sound Sketch #74 -----
「コップのなかのあなた」
コップで水を飲もうとして、ふとかんがえた。
このなかに、あなたはいるだろうか、と。
生物学的な意味では、あなたはもういない。
もう死んでしまったのだから。
葬式も出したし、死亡届も出した。
でも、死ってなんだろう。
あなたという形はなくなってしまった。あなたを形作っていた血や肉や骨は消えてしまった。でも、どこへ?
わたしは動かなくなってしまったあなたが、棺桶にいれられ、葬儀のあとに焼却炉にはいるのを見ていた。
あなたはそのなかで焼かれ、煙と水蒸気になって煙突から立ちのぼり、あとにはわずかばかりの灰と骨が残っていた。
あなたは水蒸気と二酸化炭素といくらかのミネラル分に分解され、世界のなかに散らばっていってしまった。
だとしたら、いま、ここに、わたしの手のなかにあるコップの水のなかに、あなたの一部はいないだろうか。
計算してみよう!
仮にあなたの成分が、水分が60パーセント、脂肪が20パーセント、タンパク質が15パーセント、ミネラルが5パーセントだったとする。
ややこしいので、いまは水分だけに着目する。
あなたの体重は60キロだった。60000グラム。なので、あなたの水分は36,000グラム。
真水 H2O の分子量は18グラムパーモル(g/mol)だから、あなたの水分子量は2,000モル。
分子の数はアボガドロ定数により 6.023の23乗×2,000モル、すなわち1,724,748,800,000,000,000,000個。
一方、地球の表面積は約510,000,000,000,000平方メートル。
あなたの水分子数を地球の表面積で割れば、338,186,039個。
つまり、1平方メートルあたり338,186,039個のあなたの水が、地表には存在しているということになる。
きっとこのコップの水にも、あなたがたくさんはいっているにちがいない。
わたしのこの身体だって、数か月で分子は全部入れ替わっている。
形を保っているように見えて、じつは流れる河のように動いている。
わたしのように見えるものは、じつは岸辺。流れる水を通すだけの形。わたしはたえず動いている。
鳥がやってきて、さえずり、愛を交わし、巣を作り、ヒナを育てて、また去っていく、そんな樹木のようなもの。樹木も何十年、何百年とそこに立っているように見えて、ずっとおなじものはなにもない。
わたしのなかにあなたがいて、あなたのなかにもわたしがいる。
世界のなかにわたしもあなたもいて、つながっていて、すべてとつながっていて、ゆたかに流れている。
そんなことを思いながら、わたしは幸せな気持ちでコップ一杯の水を、あなたを飲んだ。
2010年7月12日月曜日
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