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----- 群読のためのシナリオ -----
群読シナリオ「Kenji」(2)
A「(つづけて)すると胸がさらさらと波をたてるように思いました。けれどもまた
じっとその鳴ってほえてうなって、かけて行く風をみていますと、今度は胸がどかどか
となってくるのでした。きのうまで丘や野原の空の底に澄みきってしんとしていた風
が、けさ夜あけ方にわかにいっせいにこう動き出して、どんどんどんどんタスカロラ海
溝の北のはじをめがけて行くことを考えますと、もう一郎は顔がほてり、息もはあはあ
となって、自分までがいっしょに空を翔けて行くような気持ちになって、大急ぎでうち
の中へはいると胸を一ぱいはって、息をふっと吹きました」
歌手「(呼びかけるように)ケンジ」
ピアノ音(ジングル風一発音)。
全員「(動きながら)雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ
慾ハナク
決シテ瞋ラズ
イツモシヅカニワラッテヰル」
D「霧がじめじめ降っていた。諒安は、その霧の底をひとり、険しい山谷の、刻みを
渉って行きました。(これはこれ 惑う木立の 中ならず しのびをならう 春の道
場)。どこからかこんな声がはっきり聞えて来ました。諒安は眼をひらきました。霧が
からだにつめたく浸み込むのでした。全く霧は白く痛く竜の髯の青い傾斜はその中にぼ
んやりかすんで行きました。諒安はとっととかけ下りました。そしてたちまち一本の灌
木に足をつかまれて投げ出すように倒れました。諒安はにが笑いをしながら起きあがり
ました。いきなり険しい灌木の崖が目の前に出ました。諒安はそのくろもじの枝にとり
ついてのぼりました。くろもじはかすかな匂を霧に送り霧は俄かに乳いろの柔らかなや
さしいものを諒安によこしました。諒安はよじのぼりながら笑いました。その時霧は大
へん陰気になりました。そこで諒安は霧にそのかすかな笑いを投げました。そこで霧は
さっと明るくなりました。そして諒安はとうとう一つの平らな枯草の頂上に立ちまし
た」
全員(D以外)「(動きながら)一日ニ玄米四合ト
味噌ト少シノ野菜ヲタベ
アラユルコトヲ
ジブンヲカンジョウニ入レズニ
ヨクミキキシワカリ
ソシテワスレズ」
D「そこは少し黄金いろでほっとあたたかなような気がしました。諒安は自分のからだ
から少しの汗の匂いが細い糸のようになって霧の中へ騰って行くのを思いました。その
汗という考から一疋の立派な黒い馬がひらっと躍り出して霧の中へ消えて行きました。
霧が俄かにゆれました。そして諒安はそらいっぱいにきんきん光って漂う琥珀の分子の
ようなものを見ました。それはさっと琥珀から黄金に変りまた新鮮な緑に遷ってまるで
雨よりも滋く降って来るのでした」
全員「(動きながら)野原ノ松ノ林ノ
小サナ萓ブキノ小屋ニヰテ」
D「(おっかぶせるように)いつか諒安の影がうすくかれ草の上に落ちていました。一
きれのいいかおりがきらっと光って霧とその琥珀との浮遊の中を過ぎて行きました。と
思うと俄かにぱっとあたりが黄金に変りました。霧が融けたのでした。太陽は磨きたて
の藍銅鉱のそらに液体のようにゆらめいてかかり融けのこりの霧はまぶしく蝋のように
谷のあちこちに澱みます。
全員「(動きながら)東ニ病気ノコドモアレバ
行ッテ看病シテヤリ」
D「(おっかぶせるように)すぐ向うに一本の大きなほおの木がありました。その下に
二人の子供が幹を間にして立っているのでした。その子供らは羅(うすもの)をつけ瓔
珞(ようらく)をかざり日光に光り、すべて断食のあけがたの夢のようでした」
全員「(動きながら)西ニツカレタ母アレバ
行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ」
D「ところがさっきの歌はその子供らでもないようでした。それは一人の子供がさっき
よりずうっと細い声でマグノリアの木の梢を見あげながら歌い出したからです」
全員、その場に静止して。
偶然止まったその場所で。
C「サンタ、マグノリア、枝にいっぱいひかるはなんぞ」
D「南ニ死ニサウナ人アレバ、行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ」
歌手「天に飛びたつ銀の鳩」
D「北ニケンクヮヤソショウガアレバ、ツマラナイカラヤメロトイヒ」
C「セント、マグノリア、枝にいっぱいひかるはなんぞ」
D「ヒドリノトキハナミダヲナガシ」
歌手「天からおりた天の鳩」
D「サムサノナツハオロオロアルキ」
A「マグノリアの木は寂静印です。ここはどこですか」
D「ミンナニデクノボートヨバレ」
C「私たちにはわかりません」
D「ホメラレモセズ」
C・歌手「そうです、マグノリアの木は寂静印です」
A「あなたですか、さっきから霧の中やらでお歌いになった方は」
C・歌手「ええ、私です。またあなたです。なぜなら私というものもまたあなたが感
じているのですから」
A「そうです、ありがとう、私です、またあなたです。なぜなら私というものもまたあ
なたの中にあるのですから」
D「クニモサレズ」
A「ほんとうにここは平らですね」
B「ええ、平らです、けれどもここの平らかさはけわしさに対する平らさです。ほん
とうの平らさではありません」
A「そうです。それは私がけわしい山谷を渡ったから平らなのです」
B「ごらんなさい、そのけわしい山谷にいまいちめんにマグノリアが咲いていま
す」
A「ええ、ありがとう、ですからマグノリアの木は寂静です。あの花びらは天の山羊の
乳よりしめやかです。あのかおりは覚者たちの尊い偈(げ)を人に送ります」
B「それはみんな善です」
A「誰の善ですか」
B「覚者の善です。そうです、そしてまた私どもの善です。覚者の善は絶対です。そ
れはマグノリアの木にもあらわれ、けわしい峯のつめたい巌にもあらわれ、谷の暗い密
林もこの河がずうっと流れて行って氾濫をするあたりの度々の革命や饑饉や疫病やみん
な覚者の善です。けれどもここではマグノリアの木が覚者の善でまた私どもの善です」
全員「サウイフモノニ、ワタシハナリタイ」
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