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----- MIZUKI Yuu Sound Sketch #24 -----
「The Underground」 水城雄
暗闇にノックの音が響く。
こんこん、こんこんこん。
彼は闇のなかで顔をしかめる。
だれだ、こんな時間に。いや……そもそもいまは何時だ。
集中していた。彼が手にしているのは、アフリカの民族楽器。粗末なカリンバ。金属板の響きを共鳴させるためのひょうたんが、先日落とした時に割れて欠けてしまった。しかし、まだ望ましい響きは失われていない。少なくともこの地下室では。
ほぼ正確にわかっている照明のスイッチを探り当て、明かりをつける。白く乾いた光が、地下室を妙に平面的に照らし出す。
いつものことだ。
彼はまばたきをこらえて、ドアをあける。
青いストライプの制服を着た男が、こぶりの箱を抱えてそこに立っている。なぜか驚いたような表情を浮かべている。
「てっきりお留守かと……」
三十歳くらいだろうか。彼よりはだいぶ若い。
制服男が箱を彼に差し出す。中身はなんなのか。そうだ、命をつなぐための最小限の食料品。ネットで定期的に取りよせている。
「サインでもけっこうです」
男が去ると、彼はもう荷物のことを忘れて、孤独な仕事にもどる。中断された貴重な時間がおしい。
白っぽい照明のスイッチをいそいで切る。
時間を音響で再組織すること。それが彼の仕事だ。時間軸のなかに、あるタイミングで音をならべる。音程と音色と強弱のパラメーターを与えた音を、時間軸にそってならべていく。暗闇のなかで。
カリンバの金属片をひとつ、爪弾いてみる。カリンバという楽器の音色を持った5E音程の音が彼の地下室に響き、短い反響を残して消えていく。正確に一・六秒後に隣の金属片をはじく。5Fシャープの音が響き、そして消える。
かつては彼もその音列を記録していた。紙に記録し、再現できるようにしていた。彼のその仕事を、人は作曲と呼んでいた。
いま彼は、記録することをやめている。
時間を音響で再組織すること。時空を人が支配できる唯一の仕事、それがこれだ。
音楽だ。
音は時間と空間のなかで生まれ、そして消えていく。しかしそれは偶然でも無益でもない。くっきりと意図されたものだ。そこには歓喜がある。記録など意味はない。
音楽。
それは人の人生のようなものだ。
いや、人生が音楽のようなものか。
彼は暗闇のなか、かすかに震える指でカリンバの金属片をはじきつづける。
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