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クラリネット
水城ゆう
その人はそらの上からやってきた
古びた黒いクラリネットを持って
その人がクラリネットを吹くと
古びた音がした
アルトサックスでもフルートでもなく
リコーダーでもオーボエでもない
そのクラリネット吹きは
いろいろなものを連れてきた
ぜんまいじかけの柱時計
ぎざぎざのついた洗濯板
足踏み式のミシン
三角乗りした自転車
土でかためたかまど
炭を乗せるアイロン
手で汲みあげる井戸ポンプ
黒板とチョークと黒板消し
すこし調律の狂ったアップライトピアノ
はさに干した稲の束
軒に吊るした干し柿
ハエ取り紙と汲み取り便所
ナイフで削った鉛筆の先
竹で作った鳥かご
アカハライモリの住む田んぼ
蛍が生まれる用水路
カッコウが鳴く向い山
渓流の飛び込み岩
ツバメの巣
夕立
つらら
雑木林
クラリネット吹きは
なつかしいメロディを何度か吹くと
またそらの上にもどっていった
連れてきたものたちも
一緒に連れてかえってしまった
それからというもの
古びた黒いクラリネットは
一度も見かけていない
2018年8月27日月曜日
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