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子どものころの七つの話「七 砂場の糞の話」
作・水城ゆう
男の子が多いときは山に行ったり河で遊んだりしたが、女の子と遊ぶときは家のなかか近所のことが多かった。
隣の家はハタ屋で、年中休みなくガシャコンガシャコンと機織りの音がひびいていた。そこの娘は私と同い歳で、よくいっしょに遊んだ。うちに来て、母の作った焼きリンゴを一緒に食べたり、庭でままごとをしたりした。
ある日、近所の砂場のようなところで遊んでいた。堤防の下の空き地のようなところで、そんなところにわざわざ砂場が作ってあるはずもなく、たぶんたまたま砂地がそこにあって、子どもの砂遊びの場所になっていたということだったのだろう。
春の暖かい日で、堤防の土手に生えているしだれ柳の新緑が砂場の上をはいていて、気持ちがよかった。私とハタ屋の娘は、その下で砂でなにかを作ってあそんでいた。
私の指がなにか細長い、やや柔らかい感触のものをさぐりあてた。なんだろうと思って、つまんで見たが、砂にまみれてそれがなんなのかよくわからない。指で押しつぶすと、簡単にぐにゃりとつぶれてしまった。
ふと私は思いあたり、それを放りだすと、指を鼻に持っていった。
強烈な臭気を感じ、私はあわてて家に走りもどった。洗面所で手を洗い、指のにおいをかいだ。においはまだ消えていなかった。砂場の物体は犬のものか猫のものかわからないが、動物の糞にちがいなかった。
粉石鹸を指にまぶし、ごしごしとこすり、なんどもなんども洗った。においはなかなか消えなかった。
その日は風呂にはいったのに、風呂からあがってもにおいはこびりついていた。翌日もにおいは消えなかった。何日もにおいは消えなかった。その指についたにおいはいま現在にいたるまで消えていない。
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