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----- MIZUKI Yuu Sound Sketch #10 -----
「Depth」 水城雄
定時連絡が待ち遠しい。あと三時間。
妻の声が聞きたい。顔が見たい。ここしばらく、定時連絡に妻は姿を見せていない。
「重要な任務でしばらく出張してもらっている」
労働党科学会議の偉大なる海洋技術部総書記殿がそうおっしゃった。任務の内容も、出張先も極秘で、私にすら教えられないそうだ。教えてもらったところで、この深海でなにができようというのか。
任務完遂まであと十五日。深度七五〇〇メートルに設置された真深度居住実験施設に私が送りこまれて、今日で三十日がたった。いや、まだ二十九日か。あるいは三十一日か。
真っ暗な深海の底に設置された宇宙船のような狭い実験施設に閉じこめられていると、時間経過の間隔がどんどん麻痺してくる。いまが朝なのか夜なのか、昨日なのか明日なのか、今日が何日なのか。
小さな窓の外はなにも見えない。なにもない。窓からもれるわずかな明かりのなかを、マリンスノーが音も立てずに降っているだけだ。ときおりリュウグウノツカイがゆっくりと横切るのを見たが、夢なのか現実なのか私には区別がつかない。
それにしても、妻はどんな任務についているのか。どこへ出張しているのか。
前回定時連絡で見た妻は、私がいないにも関わらず、生きいきと美しく輝いていた。地上では充実した生活を送っているようだった。その妻の肩に偉大なる海洋技術部総書記殿の手が回されているのを見たような気がしたが、それは私の見間違いだったのか。
任務完遂まであと十六日……十七日? いや、二十日か? いつまでここにいればいいのだ。ひょっとして、永久にここに閉じこめられてしまうのではないか。
いまは何時なのか。定時連絡まであと何時間なのか。そもそも定時連絡の時間はやってくるのだろうか。
私は生きているのか。それとも死んでいるのか。
私はいったい、だれなのか。
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返信削除お借りいたします!
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返信削除SpoonのCASTに使わせていただきます。いつもありがとうございます。
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返信削除素敵な作品をありがとうございます。