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----- 群読のためのシナリオ -----
「祈り」 水城雄
シーン 1
A「綿雪まじりの冷たい空気のなかで、私は大きな木に向かって祈りをささげる」
B「神にでもなく」
C「自分の幸せや健康にでもなく」
A「ひとり、大樹に向かって祈りをささげる」
D「昨夜見た、坂の途中で立ちつくしていたサンドイッチマンに」
E「割り勘をごまかそうとした友人に」
D「電話ボックスのなかで抱き合っていた若い男女に」
E「席をゆずらず眠ったふりをしていた高校生に」
全員「祈りをささげる」
A「ビルに衝突した飛行機の乗務員と乗客とテロリストに」
B「くず折れるビルに」
C「天空に向けられたロケット砲に」
D「アラファトとシャロンに」
E「オウムとイエスの方舟たちに」
全員「祈りをささげる」
B「私のコーヒーポットとオレガノの鉢に」
C「息子に贈るハーモニカに」
A「私は祈りながら、木の幹に手を触れる」
D「見上げると、綿のような雪が暗い空のかなたから、ゆっくりと降りてくる」
E「どこか遠くで鐘が鳴っている」
シーン 2
C「この樫の木は、冬も青々と葉を広げて立っている」
A「私が生まれるより前から」
BE「世界の人が生まれるずっと前から」
A「樫の木はここにこうして立っていた」
DE「この樫の木より前に生まれた人は、ただのひとりもいない」
BC「この樫の木よりも長く生きる人も、ひとりもいない」
ACE「樫の木が倒されないかぎり」
全員「樫の木が人の手によって倒されないかぎり」
B「飛行機の形をした斧が、大陸のはずれの島に立っていた大きな木をなぎ倒し
た。斧の力はすさまじく、木は一瞬にしてくずれ倒れた。人の手が斧をふるい、
人の手が何本もの木をなぎ倒した」
D「人の手が細菌をばらまき、人の手がミサイルを異国に打ちこんだ」
E「光でいろどられ、音楽があふれている街を、着飾り、作られた笑いを顔に張
りつかせた人々が、目的もなく行き交っている。
A「それを、今日、私は見ていた」
C「雪がやんだ」
D「私は手を樫の木に触れさせたまま、ひとり空をあおぎ、祈る」
全員「また鐘の音が聞こえた」
(おわり)
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