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----- MIZUKI Yuu Sound Sketch #71 -----
「飛んでいたころ」
いまはもう飛ぶことはできないけれど
まだかすかに
飛んでいたころの記憶がよみがえる
梅丘二丁目の信号から北にむかってまっすぐ降りてきて
駅前の通りと小田急線の高架をくぐった先にある信号
嵐の桜井くんがよくタクシーをつかまえようとしている交差点
渡って右手に北沢警察、左手に光明養護学校が見える通り
晴れているとぱあっとそらが広くなるあたり
飛んでいたころの眼球の感触
飛んでいたころの皮膚の感触
飛んでいたころの四肢の感触
あのとき
指は翼を引くロープをしっかりと握りしめていた
足先はバランスを取るためのベルトにひっかけていた
身体は体重移動のためにそりかえらせていた
頬が風を切り
ときおり水滴がひたいを打った
眼球の乾燥を防ぐために涙があふれ
遠くの積乱雲がぼやけた
陽に灼けることなど気にもしなかった
いまはもう飛ぶことはできないけれど
飛ぶことを思うことはできた
頬が風を切った
積乱雲を見た
風に揺れる森を飛びこえた
やがて年老いて動けなくなり灰になってしまっても
飛ぶことの思いはまだ駆けめぐっていただろう
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