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----- MIZUKI Yuu Sound Sketch #28 -----
「Wind Blows In My Life」 水城雄
お金のためじゃないのよ。
ええ、チラシ配りのアルバイト。近所をまわって、チラシをポストに入れて歩く。時給はまあまあ、かな。
このアルバイトだって、チラシで見つけた。うちのポストに入ってた。アルバイト募集のチラシ。それだってだれかが配ったんだ。
たしかにたいしたお金にはならないけど、どうせ空き時間を使うんだし、なにもしなければ一円だって生まない時間よね。くだらない昼ドラ見たり、茶店で主婦仲間と旦那の悪口いいあったり。
旦那は、一流企業というわけじゃあないけど、まあそこそこちゃんとした会社のリーマン。営業。頭が薄くなりかけてる。でも、三十五をすぎて頭が薄くなりかけてない男なんて、普通じゃないし、どこかうさんくさい。だからといって、旦那ひとすじというわけでもないけどね。
いえ、浮気なんかしたことないよ。ちょっといいかな、という男はいるけどね。同級生の旦那で、税理士やってる。遊びに行くと、愛想よくしてくれる。三十五をこえて頭も薄くなってない。同級生の彼女は旦那に愛想つかしてる。なら、うちが取っちゃうよっていうと、どうぞって。離婚しちゃえばいいのに、そうしない。できるわけない。うちだってそうだもん。
だってそうでしょ。三十すぎて、頭は薄くなってないけどね、女だから、小学校にあがったばかりの子どもがひとりいて、お腹にもうひとつ胸がついてるようなぷにぷにした女、離婚してそれからどうすればいいっていうの。手に職もないしね。せいぜいこうやって歩きまわって、チラシ配って歩くだけ。
でもけっこう楽しいのよ、これ。やってみてわかったんだけどさ。天気がよければ、歩くのも気持ちいいしね。ばか高い会費払ってスポーツクラブなんか行くより、ダイエットにもなるし、健康にもいいし。
歩きまわってると、いろんな人に会うのよ。工事現場の警備員さんとかね。あれだってアルバイトだよね。けっこうな年齢のおじいさんとか、茶髪のお姉ちゃんとか、いろんな人がやってる。何度も通ってると、自然に挨拶するようになったりね。いいもんよ、そういうのも。庭の手入れしているおばあちゃんとかね。
うちなんか、子どもも手が離れて、旦那とはいいかげん倦怠夫婦だし、頭は薄くなってきたし、うちも三十をとっくにこえちゃったし、かといってこれといって特技もないし、自立できるほどの経済力もないし、もう人生終わったみたいな気がしてたのよね。でも、よかった。チラシ配りなんてアルバイト、お金にこまってせっぱつまった人がどうしようもなくなってやるような仕事だと思ってたけど、そう思われてるかもしれないけど、そんなことない。
そりゃ、もっと効率のいいアルバイトはいっぱいあると思うよ。もっと生産的な仕事とかね。でも、この仕事も悪くない。ていうか、どんな仕事も悪くないんだと思うな。
そうね。こうやって歩いていると、いろんなものが見えてくる。いろんなことを考える。人生、そう悪くないじゃないって思えてくる。
なんかね、自分の時間の風通しがよくなるような気がするんだ、チラシ配りのアルバイト。
あんたもやってみなよ。紹介しよっか?
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