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----- Jazz Story #17 -----
「Why Do You Pass Me By」 水城雄
あたし、ママのこと、きらい。
ママが歌ってる。大勢の人の前で。
みんなママを見て、拍手をして、歓声をあげてる。ママが歌い、なにかいうたびに、みんなの顔がよろこびにはじける。
みんなママにあこがれてる。
でも、あたしはママのこと、きらい。
ステージの上で輝いているママ。でも、家ではどうなのか、あたしは知っているから。
ママはおこりんぼだ。あたしのことをすぐに怒る。
あたしはもう大人なのに、いつまでも子どもあつかいだ。すこしでも帰りが遅くなると、もうキーキー怒る。家のことを手伝わないといって怒る。宿題をすませてないといって怒る。塾の成績が悪いといって怒る。そんなんじゃ中学に入れないといって怒る。
わたしはあなたのためを思って怒るのよ。それがわからないの?
わかってる。そんなことはわかってる。でも、あたし、ママに怒られたくて生きてるんじゃない。
ママはあたしのこと、少しもわかっていない。あたしはママのことをこんなにわかっているのに。
ママがだれを好きなのかも、ちゃんと知ってる。みんなが家に来たとき、ママがどの人だけを見ているのか、あたし、ちゃんと知ってる。それはシーナさんだ?
ほんというと、あたしもシーナさんのことがちょっと好き。ミズーほどじゃないけどさ。
ママ、知ってる? シーナさんもママのことが好きなんだよ。
ママが歌い終わると、拍手は鳴りやまない。
みんな、アンコールを期待してるんだ。あたしは早く帰りたいのに。もう早く終わって、帰りたい。
あたしをみんながちやほやしてくれるのは、ママの子だからだ。そんなことぐらい知ってる。だから、ちやほやなんかされたくない。あたしはただ、ママと家でいっしょにウノをやったり、『ヒカルの碁』を読んだりしたいだけ。だれにも頭をなでられたくなんかないし、だれにも家に来てほしくない。
なのに、いつもうちにはいつもたくさんの人がやってくる。
みんなママ目当てなんだ。シーナさんだってね。
でも、この間のライブはひどかったよ、ママ。あれはママがかわいそうだった。あたしだってママの子なんだから、音楽のことはわかる。ママの後ろで演奏していたおじさんたち、ちょっとかっこいい感じはしたけれど、演奏はぜんぜんだった。ママもわかってたんでしょ? すばらしいメンバーを紹介します、なんていってたけど。
お客さんはだれもわかってなかったよね、きっと。でも、あたしにはわかった。
ギターの人が変なコードを弾いたとき、ママが悲しそうな顔になったのを、あたし、ちゃんと見てた。
あたしはママのこと、嫌いだけど、ママの悲しそうな顔を見るのはいや。
ママ、どうしてそんなにがんばるの?
シーナさんのため?
あたしのため? だったらあたし、そんなことちっとも望んでない。もっといっぱい、ママといっしょにいたいだけ。
ママなんか、きらい。
でも、きっとシーナさんよりもずっと、ママのことを……
読ませていただきました。いつもありがとうございます。
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