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----- Jazz Story #34 -----
「Ba-Lue Bolivar Ba-Lues-Are」 水城雄
Scene 1
「おばあちゃん、あけましておめでとう!」
「んや、おめでとう、るみちゃん」
「やだ、おばあちゃんったら。るみじゃなくてるなでしょ」
「そうだったよね、ごめんよ、るみちゃん……ん、なんだね、この手は?」
「だからぁ、なにかあたしに渡すものとかあったりしないかなぁ、なんて」
「渡すものかい? さぁて、なんだっけね。覚えてないねえ」
「まあいいよ、きっとそのうち思い出すから。おばあちゃん、元気そうでよかった」
「そう、腰が痛くってねぇ。もうだめだね、この歳になっちまったら」
「そんなことないよぉ、すっっっごく元気そうじゃん、おばあちゃん」
「ほんとにこのごろは悪い事件ばっかり起こるねえ。ほんと、生きているのもいやんなっちゃうよ。るみちゃんはまだ若いからいいだろうけどね」
「るみじゃなくて、るな。それより、おばあちゃん。最近は景気が悪くてさぁ」
「あん?」
「景気。けいき。ケーキが悪いんだってば!」
「ああ、るみちゃんは小さいころからケーキが好きだったよね」
「そうじゃなくて、景気。お金のこと」
「ああ、お金ね。そうそうそうそう、景気が悪くて、たくさんの失業者が出てるって話だよねぇ。ひどい世の中だねえ、まったく」
「そうなのよ。だから、高校生もいろいろと大変でさ。わかるでしょ?」
「わかるさ、おばあちゃんだって。だからといって、るみちゃん、ああいうことしちゃいけないよ。なんつったっけね、あれ。ほれ、あの、煙突じゃなくて、線香じゃなくて、そうそうそうそう、援交」
「援助交際ね。そんなこと、るな、しないよう。でも、苦しいんだ、最近。だから、ほらおばあちゃん、お正月に孫に渡すもので、なにか忘れているもの、あるでしょ? 思い出してよ、ねえ」
「うん、ほんとに派遣切りは大変だよねえ」
Scene 2
「で、なんだい、パパとママは元気なのかい、るみちゃん」
「るみじゃなくて、るな。うん、いちおう、両方とも生きてるよ」
「そうかい。ちっとも顔を出してくれなくてね。腹を痛めて生んだ子なのに、薄情だよねぇ」
「そうねえ。ふたりとも冷たいっつーか、最近、さめてんだよね」
「どういうふうに?」
「いまはやりの家庭内離婚っつーか、なんかそんな感じなんだよね」
「離婚? パパとママ、離婚するのかい?」
「離婚はしないけどさぁ、事実上離婚してるっつーか、あたしがいるから離婚できないっつーか、ママはほら仕事してないからさぁ、離婚してもひとりで生きていけないっつーかさぁ。ま、いろいろあんのよ」
「ふーん。光男が浮気してるとか、そういうことじゃないんだよね」
「ううん、パパはそういうタイプじゃない。そんな甲斐性もないしさぁ」
「ないかい?」
「ないよ。ないない、全然ない。浮気するとしたらママのほうだね」
「ほんとかい?」
「ママってほら、けっこう美人だし、十歳は若く見えるし、スタイルだっていいし、まだまだ男の人が放っておかないって感じ?」
「百恵さんはきれいだからねえ」
「そうなのよ。だから、けっこうやばいんだ。前はパパも機嫌のいいときなんか、あたしにポンってお小遣いくれたりしたのに、最近は全然でさぁ」
「ふうん、それは困ったねえ」
「だから、ほら、わかるでしょ? けっこう大変なんだ、あたしも。ケーザイ的にヘッポコしてるっていうかぁ」
「それをいうなら、逼迫だろ?」
「そうそう、逼迫。せっぱつまってんだ、ケータイの料金とかさ。ほんと、もうエンコーとかに走っちゃいそう」
「エンコーはだめだよ、るみちゃん」
「わかってるって。だからぁ、ほら、おばあちゃん、この際だからはっきりいっちゃうけどさ、そろそろお年玉くんない?」
「そうさな、新型インフルエンザは心配だよね」
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