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----- Jazz Story #22 -----
「Start」 水城雄
大型台風の通過であやぶまれていたフライトだったが、なんとか定刻に飛んだ。
昼の便が欠航したためか、機内はほぼ満席だった。
夜のフライトだ。
私はごく短い休暇を実家ですごし、仕事場にもどろうとしていた。小松空港十九時五十五分発JAL一四八便。
空にのぼると、まだうっすらと日の光が地平線に残っていた。
私は手帳をひろげ、明日からのスケジュールを確認した。朝一番にやるべきことを書きだし、頭を休暇から仕事にもどす。
気がついたら、機体が左旋回を始めていた。
私の席は47A。左舷窓側の席。飛行機の楕円形の窓からは、おびただしい光の帯が見えた。
光の集合は、黒い線でくっきりと区切られている。
海だ。
どうやら、名古屋上空らしい。小松からまっすぐ南に飛んだ機体は、このあたりで東に進路を変える。
旋回する窓のなかに、暗い空が見えた。
なにかが光っている。
星だ。五つの星がならんでいた。
アルファベットの「W」の形をしている。カシオペア座だ。
その手前を、別の飛行機が東から西に向かって、信号灯を点滅させながら、ゆっくりと横ぎっていった。
大きくえぐれた湾から、こちら側に向かってくさび形の半島が突き出ている。
伊豆半島だ。
湾と半島を無数の光が縁取っている。その光のひとつひとつに、人々の営みがある。
半島の東側もやはりえぐれた湾になっていて、湘南の街が光の帯になっている。
その先は三浦半島、そして東京湾のはずだが、首都の光は雲に隠れて見えない。
伊豆半島の付け根のあたりで、動く光を見つけた。小さな小さな丸い光。それがパッ、パッと点滅している。
最初はそれがなんなのかわからなかった。よくよく目をこらし、それが花火であることに気づいた。
小さなミニチュアのような花火。しかし、それは地上では巨大な打ち上げ花火に見えるのだろう。飛行機からは直径五ミリほどの、ミクロの花火だ。
暗い空には、先ほどから見えているカシオペア座が右側に、そして左側には大熊座が見えた。北斗七星だ。ひしゃくの先を伸ばしたところに、ポールスター。北極星が見える。
飛行機は駿河湾を横切り、伊豆半島の先をかすめて、大島上空に差しかかった。
大島の真上で、左旋回をはじめた。
房総半島の沖合いに出て、千葉上空でさらに左に旋回する。目に見えて高度を落としているのがわかる。
傾いた飛行機の窓から、いままさに西に沈もうとしている上弦の月が見えた。
細く、赤く輝く月。それが目線より低いくらいの位置に見えている。
月が沈むころには、私も、ほかの乗客たちも、家にもどり、都会の営みにもぐりこんでいることだろう。
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