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----- Jazz Story #8 -----
「Someday My Prince Will Come」 水城雄
おばあさんからもらった真っ赤なリンゴは、つやつやと光って、ほんとうにおいしそうでした。白雪姫はかわいらしい口をあけると、リンゴを一口かじってみました。
「だめだめ、食べちゃだめ! それ、毒リンゴなのに」
娘のまどかが真剣になっていう。
それを見て、彼女はほほえんだ。そして思う。これじゃなかなか寝ついてくれないわ。
まどかはまだ三歳。来年は幼稚園に行くのを楽しみにしている。
わたしにもそういう時期があったのだろう。三歳のころの記憶なんて、まるで残っていないけれど。
「これはお話だからだいじょうぶなのよ」
「だって、毒リンゴを食べて、白雪姫は死んじゃうだもん」
もう何度読み聞かせたことやら。娘はすっかりストーリーをおぼえてしまっている。それなのに、この場面になるといつも悲しそうな顔になるのだ。
「死んだりなんかしないわ。まどかも知ってるでしょう?」
そういえば、彼女の母もよく絵本を読み聞かせてくれた。
白雪姫は読んでくれたっけ?
ピーターパンは読んでくれた。赤毛のアンの子ども版も読んでくれた。でも、白雪姫を読んでもらったかどうか、思い出すことはできなかった。
娘はこうやってわたしが白雪姫を読み聞かせたことを、大人になって思いだすだろうか。
そして白雪姫と王子様はいつまでも仲良く、ずっとお城で暮らしましたとさ、おしまい。
結局、一冊全部読み聞かせることになった。
絵本を閉じて、見ると、娘はすやすやと寝息を立てている。
なんの心配もない、おだやかな寝顔。娘のただひとつの気がかりが、マンションなので犬を飼えないこと。犬が大好きで、ずっと飼いたがっているのに、かなえてやることができない。でも、来年の幼稚園はとても楽しみにしている。
なにも覚えていないけれど、彼女の両親もやはりこうやって、彼女の寝顔を見ていたのだろうか。三歳のときのわたし。
彼女が娘の寝顔をたまらなくかわいらしいと思うように、彼女の両親もまた彼女のことをいとおしく見つめていたのだろうか。
彼女の六歳の誕生日に、両親は子犬をプレゼントしてくれた。雑種だけれど、とてもかわいかった。その犬といっしょに、彼女は小学生時代をすごした。中学もいっしょにすごした。
その犬は彼女が高校二年生になるまで生きた。両親はそのときすでにいなかった。
この子も犬が飼えるようになるといいのに。そんなことを思っていると、知らないあいだに涙があふれていた。
娘の寝顔がにじんだ。
彼女は涙を布団の端でぬぐうと、ふっくらとリンゴのように赤い娘のほおにそっとくちづけした。
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