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----- Urban Cruising #31 -----
「温室」 水城雄
ガラス越しに柔らかな日差しがさしこんでくる。
光線はヤマドリヤシの葉のあいだを通って、私の腕にまだら模様を作る。
外は春らしい天気のようだが、この温室の中はさらに南国の別世界となっている。
ベンジャミン。
最初に温室を作ろうと思ったのは、いつのことだったろうか。たしか最初は、近所のホームセンターで買ってきた、組立式のちっぽけな温室だった。
アルミの枠にガラスをはめこんだだけの、まるで透きとおった犬小屋のような温室。
シマサルスベリ。
その温室を私はベランダの隅に組みたて、何種類かの観葉植物の鉢を買ってきて、中にならべた。観葉植物は、前から一度、育ててみたいと思っていたのだ。しゃれた喫茶店などにはいるたびに目につく、観葉植物。ツヤツヤした青い葉。
ゴクラクチョウカ。
実際に育てはじめてみると、枯らさずにイキイキと保っておくには、いろんなコツが必要なことがわかってきた。ただ温室にいれ、養分と水をやっているだけでは、うまく育ってくれないのだ。
月下美人。
しかし、いろんな本を読んだり、観葉植物のマニアや専門家をたずねて情報を得たりするうち、私にも次第にうまく育てられるようになってきた。私のちっぽけなベランダの隅の温室の中で、熱帯の植物がイキイキと育っていくのを見るのは、楽しかった。
タマシダ。
そうなると欲が出てくるのは、人情というものだろう。私は、もっと大きな温室がほしくなった。私は家族を説得して、なんとか許可をこぎつけ、ベランダ全体を温室に改造してしまうことにした。
そうして完成した大きな温室は、まことに満足できるものであった。
アデニウム。
サンジャクバナナ。
ベランダ全体を改造して作った温室は、あまりにも広々としていて、観葉植物だけではなんだかもったいなかった。そこで私は、熱帯魚の水槽を持ちこんだ。
これは家族にも、なかなか評判がよかった。
なにしろ、温室だ。ふつうの熱帯魚の水槽のようにサーモスタットといった保温装置を必要としない。そんな環境が幸いしたのか、水槽の魚はイキイキと泳ぎまわり、一般にむずかしいとされる水草も美しく繁茂していった。
ウキツリボク。
ベランダの温室は、大きな水槽をふたついれてもまだ余裕があった。そこで私は、インコのカゴを中にぶらさげることにした。
アプチロン。
ペットショップで買ってきたオオバタンは、温室の中でにぎやかにさえずり、熱帯の雰囲気をかもしだしてくれた。そもそも私は熱帯の気候が好きなのだ、ということを、その頃になってはじめて自覚したものだ。
温室の中にいると、身体の調子までよくなるようだった。
ドラセナコンシンネントリカラー。
持病の喘息も、温室を作ってから発作が軽くなったような気がした。家族は、温室を作ってから私が元気になったと喜んでくれたし、子供たちは熱帯魚を繁殖させたり、インコの世話をするのが楽しみなようだった。
ある日、私はいつものように温室の中で植物たちの世話をしていて、ふと思いついた。
コチレドン。
ここに仕事机を持ちこめないだろうかヤノネポンテンカ、と。
オオハナアリアケカズラ。
ベランダを改造して作った大きな温室といえども、さすがに仕事机を持ちこむことはできそうになかった。そうしようと思ったら、せっかく持ちこんだ熱帯魚の水槽やインコのカゴを出さなければならなくなる。それはいやだ。
私は家族に相談した。つまり、パポニア、前庭に新しく温室を建ててもいいだろうか、と。
いろいろ検討した結果、家族は私のわがままをきいてくれることになった。ブラシノキ。ベランダの温室ができてから、私の健康の状態がよくなり、仕事もはかどるようになったため、収入も確実に増えたし、なにより子供たちが喜んでくれたのだ。さらに大きな温室を建てて私の仕事場をその中に運びこんでしまうというのは、ゲンペイクサギ、なかなかいいアイディアのように思えたのだ。
十五坪ほどの前庭の敷地に、さっそく大きな温室が建てられた。
新しい温室ができると、私はパッションフルーツベランダの温室から植物、水槽、鳥カゴなどを引っ越しさせ、さらに自分の仕事机や仕事に使う書籍棚なども持ちこみ、そこで仕事をはじめた。
トライアンフ。
まことに快適であった。が、ブーゲンカズラミセスバット人間の欲というのはきりがないものだ。私は温室の中にハナキリン仕事場ばかりか、生活の場すべてを持ちこんでしまいたい欲望にかられるようになった。
ストロベリーグワバ。
温室でオーゴンカズラ眠り、温室でハイビスカス目覚め、温室でサボジラ食事し、温室でオリヅルラン入浴し、温室でシロバナインドソケイ家族と過ごすのだシマナンヨウスギ。
で、私はそうした。ベコニア。
オオタニワタリ。私はいま、レイシ、自分の家をバンジロウすっかり取りこわしてその跡地にパイナップル建てた巨大な温室の中に、ハリクジャクヤシ家族ともどもトックリヤシ生活しているワタノキというわけだカジュマル。
全ての固有名詞の画像と花言葉を調べたのですが、所々理解はできたものの、自分の実力不足により完全に物語の軸を読み取れませんでした。もっと朗読を学び、この文章の真理を理解したいと思います。
返信削除ステキな文章をありがとうございます。お借りします。
SpoonのCASTにお借りします。いつも素敵な作品をありがとうございます。
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返信削除ラジオ朗読使わせてください
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